不買運動に負けた過去、戦争を煽れば新聞が売れる

 このあたりについては、今年1月にお亡くなりになった作家・半藤一利氏も、「そしてメディアは日本を戦争に導いた」(東洋経済新報社)の中でこのように述べている。

<満州事変が起きたときに、東京の『朝日』も『日日』も、大阪の『日日』もまだ小さかった『読売』も、みんな反軍から援軍、擁軍にひっくり返った。その時、『大阪朝日』だけは高原操が編集局長で、頑張っていたんです。この戦争はおかしいのではないか、謀略的な匂い、侵略的な匂いがすると書いていたとき、不買運動を受けたんですね>(同上より抜粋)

 現代の人々が、ネット上で「反日マスコミは不買だ!スポンサーへ電凸しろ!」というのは実は90年前から存在していたのである。

 ちなみに当時の不買運動の中心は、「帝国在郷軍人会」という右翼的な組織だった。そんな戦前のネト…いや、愛国心溢れる方たちの頑張りもあって、「大阪朝日」もほどなく「チーム・手のひら返し」へと加わる。役員会議で、「国家重大の時に際し、日本国民として軍部を支持し、国論の統一を図るのは当然」「極力これを支持すべきこと」という決定が下されたのだ。

 現代の企業が、ネット炎上による企業イメージの毀損や売り上げ減少を恐れて、すぐに謝罪してCMを撤回したり、事業停止を発表したりするのと同じで、当時のマスコミもビジネス的な理由で、「反軍路線」を撤回したのである。

 もちろん、ただクレームに屈していたわけではない。軍にイチャモンをつけるより、軍に寄り添って戦争を煽った方が「商売」的に美味しい、という事実の方が圧倒的に大きい。

 戦争のたびに新聞が部数を劇的に伸ばしたり、テレビの視聴率が上がったりというのは世界中で見られる現象だが、当時の日本も顕著にその傾向があった。日露戦争以降、戦争に反対をする新聞が低迷し、戦争を煽る新聞がグングン部数を伸ばしていったのだ。

 これを受けて、前出・半藤氏は次のように述べている。

<この数字が示しているのは、戦争がいかに新聞の部数を伸ばすかということです。要するに、戦争がいかに儲かるかなんです。ジャーナリズムは日露戦争で、戦争が売り上げを伸ばすことを学んだんですよ>(同上)

 もうお分かりだろう。マスコミが戦争を煽っていたのは、軍から拷問を受けて無理矢理協力させられていたとかではなく、ごくシンプルに「戦争は儲かる」からだ。