1時間10万円で指導を乞う親も

 中国には“スーパー老師”という、日本でいう“カリスマ塾講師”のような存在がいて、こうした講師の授業には高い値段がつく。ある塾講師は学校の教員を辞めて、自宅で学習塾を開いた。1回の授業料は1人1時間200元(約3400円)。生徒を50人ほど集めれば、1時間で1万元(約17万円)を稼ぐことができるという。

 この人気講師のうわさを聞きつけ、ある親がこの講師にマンツーマン指導を願い出た。“スーパー老師”が提示したのは「1時間6000元」という指導料、日本円にして10万円超である。わずか1時間の指導に、10万円に匹敵するほどの効果があると読んだのだろう、この親は惜しげもなくこの対価を払った。

 ちなみに、中国には600万元(約1億円)の資産を持つ世帯は今や500万世帯以上(2020胡潤財富報告)もあるという。少なくともこれら世帯は、子どもの教育のために無尽蔵の投資ができる。

 なぜ、ここまで教育に熱が入るかというと、中国では、大学を卒業した後の「受け皿」が限定的だからだ。中小企業は苦労が多く、誰もが行きたいと思う「高収入が得られる有名企業」となればその数は絞られる。これを突破するには、金と人脈に物を言わせるしかない。

 しかし、その人脈を使うにも、せめて「高考(gaokao、日本の大学入学共通テストに相当)」でいい成績を取り、いい大学に入れなければ話にならない。「3歳から受験競争が始まる」と言われるのはそのためだ。

 思い起こせば、日本でも過酷な受験戦争を経験した時期があった。戦後のベビーブーム世代が大学入試を迎えた時期がそれで、1960年代から学習塾がはやり出し、経営者たちが大もうけした。熾烈な受験戦争を経験したこの世代が就職すると、職場内でもガムシャラぶりを見せた。「モーレツ社員」という流行語が生まれ、まさに日本はこの「モーレツ社員」の出現とともに、米国に追随する世界トップクラスの経済大国への道を突き進んでいった。