女の子が幸せになる「学校の育て方」校外学習での学びの成果をチームで発表。中学生によるSDGsについてのプレゼンテーション 写真提供:品川女子学院

学校の経営改革は、責任者に想像以上の負荷をもたらす。祖父も父も母も、そして漆紫穂子さん自身も40代、50代でがんを患っている。2017年には理事長職を継承した。4年先の創立100周年に向けて、品川女子学院を今後どう育てていくのか。女の子が幸せになるための学校の未来像を描き始めている。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/平野晋子)

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女の子が幸せになる「学校の育て方」

漆紫穂子(うるし・しほこ)
品川女子学院理事長

品川女子学院理事長。東京・品川生まれ。早稲田大学大学院国語国文学専攻科、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。私立中高一貫校で国語科教員として勤務後、品川中学校・高等学校(1991年に現校名に改称)に移る。2003年から卒業後10年目の自分の姿を意識してモチベーションを高める「28プロジェクト」を開始し、06年校長に就任。17年理事長に就任。教育再生実行会議委員、内閣官房行政改革推進本部構成員。著書に、『女の子が幸せになる子育て』(大和書房)、『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)、『伸びる子の育て方』(ダイヤモンド社)など。

女性に不足している人材像

 本校の「28project」(前回参照)が本当に卒業後の人生の役に立っているのか調べるため、20代の卒業生に教育ベンチャーのライフイズテックとの共同調査でアンケートを取ったことがあります。まだ予備調査の段階で校内でも共有していませんが。回収率20%で200人くらいの回答でした。比較調査のため、同年代の女子校と共学校の出身生にも同じ設問を用いたオンラインアンケートを取り、各400人くらいの回答が集まりました。

 アンケートの中心テーマは、アントレプレナーシップでした。社会課題を発見して、自ら解決の一歩を踏み出すような人を育てたいからです。設問の中で、「現在の仕事・職業・就業状況にどの程度満足していますか」という問いに対して、「どちらかというと満足」「満足」「とても満足」と答えた割合が、本校のOGは9割だったのに対して、同年代の一般女子は6割でした。

 同様に、「あなたの仕事・職業に関する状況として当てはまりますか」と、次の項目について尋ねました。

「自分の仕事や働き方は、多くの選択肢からあなたが選べる状態ですか」に「はい」と答えたのはOG8割、一般5割。「自分の仕事は人々の生活をよりよくすることにつながっていますか」には、同OG9割、一般7割、そして「あなたは日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」に「はい」と答えたのはOG8割、一般6割といった具合に、いずれも一般に比べて2割程度、本校のOGは肯定的な回答を寄せています。二つのアンケートは手法に異なる部分があり、回答者バイアスもあるので単純に比較はできませんが。

女の子が幸せになる「学校の育て方」[聞き手] 森上展安・森上教育研究所代表
1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、1988年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

――それは興味深い結果ですね。案外、そういう調査はありません。

 そうですね。学校もデータを参考にしながら改善していく時代に入ったと思います。もちろん、日々生徒を見ている教員の感覚も大切ですが。今後は、研究者とも連携して、エビデンスベースでPDCAを回していくことも必要だと考えています。

 現在、「高校版IR」(高校での学びの成果をデータに基づいて検証する試み)のパイロット校になっていますが、大学と共同でアントレプレナーシップの研究もしたいと考えています。先ほどの卒業生に協力してもらった調査では、OGにどのプロジェクトにインパクトがあったかなどを聞いています。今後は、こうしたデータを活用し、これまで確信をもって取り組んできたことの効果を定量的に検証し、後輩の教育に生かしていければと思っています。

 本校は創立の理念に照らし、起業マインドのある女性リーダーを育てていきたいと思っていますが、探してみると、アントレプレナーシップの研究というのはあまりありません。言葉の定義自体もあいまいです。

 そんな中、海外の研究ですが、「起業したかどうか」をアウトプットに、子どものころに何がインプットされていたかを調べたものを見つけました。起業にプラスに働く因子が親の離婚と引っ越しの回数で、マイナスに働くのが10歳時点のリテラシーと自己肯定感でした。もっとも、これは男の子の場合ですけれど。子どもにとって困難なことや新しい環境に適応しなければいけない経験がプラスに働き、逆に勉強ができて褒められていると、あえてリスクを取って起業するようなマインドは育たないということなのかもしれません。

――まあ、そういう子は起業しなくても生きていけると思うのかな(笑)。

 今回のアンケートでは、「0から1をつくっているか」という定義をして設問を作りました。大学の偏差値ではない、社会で生きる力から逆算した指標をつくりたいなと。

――いまの中学受験にはないあり方も考えていますか。

 そこが難しいところですが、女子校の中では早くから、算数1科とか4科総合型入試などを導入しました。いま特に女性で不足している人材は、「数字に強い文系」と「しゃべれる理系」だと思います。その出口と入り口をつなぐのが入試だと思っています。

「しゃべれる理系」は卒業生の言葉です。大手電機メーカーの最終面接に残った30人中、東大や東工大の院生男子に混じって一人、MARCHから合格したOGです。彼女は、日本の大学はまだ文系理系に分かれているが、職場はそうではない。その橋渡し的な人材も求められていると言っていました。

 同様に、これからは、文系であっても数学的な論理的思考力やデータサイエンスの知識がなければ、さまざまな判断ができない時代になっていきます。