地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、6万部を突破した『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏だ。日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。本連載は、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだものである。

イギリスのEC加盟で「白人優遇法律」が廃止! その意外な理由

イギリスとオーストラリアの意外な関係

 1973年、イギリスがEC(ヨーロッパ共同体。EUの前身)に加盟します。ヨーロッパ経済の転換点の1つですが、実は遠く離れたアジア・太平洋にも大きな影響を与えたのです。

 オーストラリアという名称は、ラテン語の「テラ・アウストラリス」に由来するもので、意味は「未知なる南方の大陸」です。古代ギリシア時代には地球球体説が唱えられていて、南半球にも北半球と同じだけの広さを持つ大陸があると考えられていました。

 長らく仮説だった「未知なる南方の大陸」の存在が明らかになるのは、大航海時代以降の話です。それほどヨーロッパから見て、オーストラリアは遠い彼方の地だったのです。

 度重なる航海の結果、その存在はヨーロッパの知るところになります。1828年頃までに、オーストラリアはイギリスの植民地となり、開拓が進められていきます。

 イギリスの流刑植民地として機能し、イギリスから多くの囚人たちが移民としてオーストラリアに渡りました。彼らは先住民のアボリジニーから土地を取り上げ、農牧地を拡大させます。

 オーストラリアの経済発展を見ていきましょう。冷凍船がなかった時代、比較的日持ちすることから、羊の肉が重宝されます。オーストラリアの羊毛生産量は32万8608トン(2019年)で中国に次いで世界2位。輸出量は21万6000トン(2017年)と世界最大を誇っています。

 1851年になると、オーストラリアのヴィクトリア州にて金鉱が発見されました。金鉱が発見されたことにより就業機会が増え、中国人移民も増えます。