創業家から言われて
社長に就任

 経営がにっちもさっちもいかなくなり、この先も経営が悪化していくことが予想される中、社長を誰かにバトンタッチしなければなりませんでした。

 銀行から社長を招くか、私が社長になるか、その二つの選択肢しかないようでした。

 後ほどお話ししますが、当社の創業者である鍵山秀三郎は「他人の幸せ」を基本として行動し、自社のみならず、周辺地域などの「掃除」を重んじるなど、独特な社風の会社です。銀行出身者が社長になれば、直接収益を生まない掃除のような文化は、なくなる可能性が高い。また、リストラや赤字店舗も多数閉鎖されることが予想されました。

 当時の社長は創業者の長男でしたが、創業家からすれば、当社で脈々と続いてきた文化はなくしたくなかったのだと思います。

 一方、私は大学卒業後、1年半ほど別の会社で働いたことがありましたが、当社ではほぼ新卒社員。掃除は嫌がらずにやるし、さまざまな業務を経験して会社の内情もよく知っていました。そこで、創業家から「社長を引き受けてほしい」と言われて、社長就任を決めました。

 長年お世話になった会社なので、愛着がありました。先ほど経営改革案のお話をしましたが、経営を立て直すために必要なこともわかっていたので、自信はありました。

 ところが、社長就任の直後、まったく予想もしなかった苦難に見舞われることになったのです。