一定要件を満たした被災者は
医療費の自己負担分が無料に

 もうひとつ、災害時に出されるのが、(2)の健康保険の特例措置だ。

 平常時に病気やケガをして医療機関を受診する際は、窓口で健康保険証を提示して、治療にかかった医療費の一部を患者も自己負担することになっている。

 患者が窓口で支払っているお金は、かかった医療費全体の一部のみで、現在は年齢や所得に応じて1~3割。残りの9~7割は健康保険組合が負担しており、医療機関は審査支払機関を通じて、その患者が加入している健康保険組合に医療費を請求している。健康保険証は、その医療費の請求先を確認するための証明書なのだ。

 平常時は、健康保険証と所持金がないと医療機関は受診できない。そのようにして医療費の支払いが担保されることによって、私たちは必要な医療が受けられている。

 だが、災害時は避難時に健康保険証やお金を持ち出せなかったり、紛失してしまったりすることも考えられる。そのため、大きな災害が起きると、厚生労働省から通知が出されて、健康保険を使う医療についても特例措置が取られる。

 まず、被災者が病院や診療所を受診する場合は、健康保険証の提示がなくても、氏名や生年月日、勤務先や加入している健康保険組合を伝えるだけで、必要な医療が受けられる措置が取られる。また、所持金がない場合は、1~3割の自己負担金についても当面は猶予してもらえる。

 これが発災直後に取られる健康保険の特例措置だが、災害が甚大なものになった場合はさらに追加措置がある。国民健康保険法第44条、健康保険法第75条の2(および第110条の2)の規定によって、一定要件を満たした被災者については、一部負担金が減額、または免除される措置が取られるようになるのだ。

 このルールは、2011年3月11日の東日本大震災を契機に作られた。

 災害救助法が適用された市町村(東京を除く)の住民で、国民健康保険、後期高齢者医療制度、協会けんぽ、一部の健保組合・国保組合の加入者(その扶養家族も含む)のなかで、次のいずれかの要件に当てはまる人が対象とされた。

(1)住宅が全半壊、全半焼またはこれに準ずる被災をした人
(2)主たる生計維持者が死亡または重篤な傷病を負った人
(3)主たる生計維持者の行方不明の人
(4)主たる生計維持者が業務を廃止・休止した人
(5)主たる生計維持者が失職し、現在、収入がない人
(6)東京電力福島第一原発の事故に伴う政府の「警戒区域」「計画的避難区域」および「緊急時避難準備区域」に関する指示の対象になっている人

 その後の災害でも、このルールが踏襲されている。この要件を満たしていれば、災害の発生後に被災地から他の市区町村に住所を移した場合も減免を受けられる。

 今年7~8月の大雨の災害時にも「健康保険組合の判断で一部負担金や保険料の減免ができる」旨の通知を厚生労働省は出しており、災害救助法が適用された市町村で上記の要件を満たした被災者は、当面の間、無料で医療を受けられる。

 災害時は身体的にも、メンタルにも負荷がかかるので、普段健康な人も体調を崩しやすくなる。まずは命を守るために、お金のことは心配しないで、必要な医療を受けるようにしたい。