世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。

先進工業国は、先進農業国でもある。「工業・農業」の意外なつながりPhoto: Adobe Stock

工業と農業の意外な関係とは?

 人類が初めて農業を行ったのは、メソポタミア地方だったと考えられています。今から約1万年前に最終氷期が終了したことで、地球が温暖化し、農業活動が可能となりました。最初に作られたのは小麦だったと考えられています。

 農業が始まったことで、獲得経済期では不安定だった食料供給量が安定しました。そして世界の人口は増加の一途をたどります。約1万年前、およそ500万人だった世界の人口は、西暦元年頃には2億5000万人にまで増加したと考えられています。食料供給量の安定が、いかに人口増加に影響を与えたかがわかります。

 機械がなかった頃、農業は人間の手によって行われるものでした。そのため生産量を大幅に増やすことは難しく、労働力を確保するために子どもが多くもうけられました。欧米諸国ではアジアやアフリカの植民地から、現地住民を別の植民地へ農業奴隷として連れ出しました。

 その後は農業機械が登場し、また化学肥料の発明などによって生産性が向上しました。そして、少ない労働力で農業が行えるようになると、工業化が進み、出生率は下がっていきます。世界でいち早く工業化を達成したヨーロッパ諸国は、どこの地域よりも早く少子化が訪れました。

 近年では、スマート農業と呼ばれる「ロボット技術や情報通信技術を活用した高品質農作物の生産を実現する農業」が注目を集めています。

 重労働として敬遠されていた農業が見直され、新規就農者の確保、ひいては栽培技術の継承、食料自給率の向上などが期待できるようになります。このように先進工業国は同時に先進農業国でもあります。農業は工業発展によっても成長するのです。

 西アジアのイスラエルでは、国土の南半分に砂漠気候が展開しているため、農業活動が困難です。しかし、チューブを通して効率よく農作物に水を供給するシステム、点滴灌漑(てんてきかんがい)を発明しました。配水管などを用いて土壌や根に灌漑水を与えることで、水や肥料の消費量を最小限にする灌漑方式のことです。

 これによって食料供給量が安定し、イスラエルの増えゆく人口を支えることができています。世界では日々、課題を解決するために新しい技術が生まれています。それは農業分野においても同様であり、ビッグデータ、人工知能(AI)、IoTの活用によって今後の農業のあり方が大きく変わろうとしています。

(本原稿は、書籍『経済は統計から学べ!』の一部を抜粋・編集して掲載しています)