メンバーに「関心」をもてば、
自然と関係性がつくられていく

 また、私が心がけていたのは、自分から話しかけることでした。

 職場を歩くときに、あえていろいろな通路を歩くようにして、まんべんなくメンバーに話しかけるようにしていたのです。

 もちろん、かしこまって話しかけるのではありません。そんなことをすると、「業務の進捗確認かな?」などと警戒されるだけですから、軽い感じで、ほんの一言二言、言葉を交わすだけにとどめます。ほんの一瞬の雑談ですから、「忙しそうだから、話しかけると迷惑かな……」といった遠慮も不要です。

 そんなことをしていたら、いつまでたっても話しかけることができなくなってしまうだけ。そういう遠慮は、チームのためにも、自分やメンバーのためにも百害あって一利なしです。そのためにも、手短かに雑談を終えることを徹底すべきなのです。

 ここで活きたのが、飛び込み営業をしていた頃の経験です。

 ある会社を訪問したときには、素早くちょっとした変化を見つけて、それを糸口に会話を始める必要があったからです。同じ要領で、メンバーのちょっと変化を見つけて、それに軽く触れてあげるのです。

 例えば、デスクにお気に入りのマスコットを置いているメンバーがいれば、「あれ、なんか新しいマスコット増えたね」などと声をかける。髪の毛を切ったメンバーがいれば、「雰囲気変わったね」と声をかけて、「そうなんですよー」と返ってきたら、「すごいいい感じだよ」とニッコリ笑って立ち去る。そんな感じでいいのです。

 大事なのは、一人ひとりのメンバーに対して、分け隔てなく関心をもつことです。それを意識していれば、変化が目に入ってきます。それを言葉にして伝えるだけで、メンバーとの関係性には変化が生じます。

 いわば、心配りです。慣れないうちは、ぎこちない声がけになってしまうかもしれませんが、メンバー一人ひとりを気にかけることを習慣にすることができれば、自然に声がけができるようになります。

 そして、メンバーにも、「この管理職は、自分のことを見てくれている」「自分のことを受け入れてくれている」と思ってもらえるようになり、なんとなく向こうからも心理的距離を近づけようとしてくれるようになるのです。

リモート環境下で広がる
「疑心暗鬼」に敏感であれ

 問題なのは、リモート環境下では、この「ちょっとした雑談」「ちょっとした触れ合い」が失われることです。

 もしかすると、ささいな問題と思う人もいるかもしれませんが、これがマネジメントに及ぼすダメージは想像以上に大きいと考えるべきです。というのは、リモート環境下ではメンバーの多くが疑心暗鬼に陥る可能性が高いからです。

 例えば、あるメンバーがなんらかのミスを犯したとします。そして、すぐに管理職に報告のうえ、しかるべき対応策を講じて、トラブル・シューティングに成功。管理職は、ミスの再発防止のために必要な指摘をしたうえで、「問題は解決したから、これ以上、このことは気にせず、次の仕事に集中してください」などと、本心からポジティブなメッセージを伝えたとしましょう。

 しかし、こうしたコミュニケーションをオンライン上で行うだけでは、心の底から安心できるメンバーは少ないはずです。「上司は口ではそう言うけれど、本心では自分に対する評価を下げてるに違いない」という疑心暗鬼が首をもたげるからです。

 私自身、若かった頃はそうでした。

 上司と二人でいるときに、どんなに「失敗を気にするな」と優しい言葉をかけられても、それだけで安心することはできませんでした。

 それよりも、他のメンバーもいる職場で、それまでと変わりなく、上司に笑顔で声をかけてもらえて、それを周りも温かく見守ってくれることのほうが重要な意味をもちました。上司だけではなく他のメンバーの表情、声音、雰囲気、言葉から、身体全体で「大丈夫だよ」というメッセージを受け取ることが大切なのです。「リアル」に勝るコミュニケーションはないと言ってもいいでしょう。