そもそも前提として、ワクチン接種後の死亡なのかどうかが解剖時に分からないことも問題です。接種が始まった頃、(本村氏も解剖する際に)接種と死亡の関連も考えなければと思い、解剖に搬入されたご遺体について警察官に「この方、ワクチンの接種は終わっていますか?」と聞きましたが、はっきりした返答はほとんど返ってきませんでした。

「(ご遺体発見時)部屋に接種券はなかった」程度の把握しかされておらず、行政と警察との連携、公益的な情報の共有についても整備が必要だと考えられます。

――海外では、ワクチン接種後の予期せぬ死について、どのような検証がなされているのでしょうか?

 アメリカではVAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)、イギリスではMDRA(Medicines & Healthcare products Regulatory Agency)へのYellow Cardなど、各国で接種後の有害事象について報告するシステムがあり(日本でも厚生労働省に報告するところは同じ)、報告された事例について、臨床症状や検査結果、死亡例では死因を含めた検討が行われています。調べた限りでは、コロナ禍において特別に解剖を増やして行うという報告は見られませんでしたが、死因の検討としてもちろん解剖結果は反映されています。

 また、日本の監察医業務を含むメディカルエグザミナーの連合体であるNational Association of Medical Examiners(NAME)のサイトには、新型コロナウイルスワクチン接種後死亡を取り扱う際のガイドラインが出ており、「なるべく解剖してアナフィラキシーなど確認すべし」とされています。

 ちなみに日本の監察医務院(東京都)、監察医事務所(大阪府)、監察医務室(兵庫県)からは特にこのような案内はありません。法医学会からも特に提言などはありません(感染者の解剖について案内あり)。会員として申し訳ない気持ちです。

 そもそも日本は解剖率が低いので、どうしても死因の裏付けという点で根拠が乏しいのが問題になるかと思います。

 海外のワクチン摂取後死亡の解剖例に関する論文報告では、血栓症や心筋炎が死因となった事例が提示されています。いずれも副反応による可能性は示唆されるものの、現時点での確定は難しいようですが、これらの事例の集積、統計により今後副反応としての死因に計上されてくる可能性はあるかもしれません。ですから、やはり詳細な死因を調査し、エビデンスとして残しておくことは非常に重要なのです。

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 2019年6月6日に死因究明等推進基本法が成立し、翌年4月1日より施行されてはいるが、「死因究明ならびに法医をめぐる状況は、肌感覚としては全く変わりないです」と本村氏。潜在しているであろうワクチン接種関連死を掘り起こし、新たな犠牲者の防止に生かすことは、結果として、ワクチン接種率向上につながる。コロナ禍を機に、日本は死因究明後進国からの脱却をはかるべきなのではないだろうか。

(監修/国際医療福祉大学医学部講師 本村あゆみ)

本村あゆみ(もとむら・あゆみ)
国際医療福祉大学医学部講師、千葉大特任講師
佐賀医科大学(現・佐賀大学)医学部卒業。8年間の救命救急医勤務の後、法医に。千葉大医学部附属法医学教育研究センター助教、東京大学法医学講座特任助教を経て、2018年5月より現職。