菅政権の悪習を引きずり、フワッとしてはいるが
新自由主義からの転換を目指す岸田候補

 各候補者は、出馬表明会見という形でそれぞれの政策を発表し、自らの公式サイトやYouTubeの公式チャンネルに、政策パンフレットや会見動画などを掲載、積極的な発信を行っている。討論会も頻繁に行われている。

 最初に名乗りを上げた岸田候補は、新型コロナ対策、経済政策「新しい日本型資本主義・新自由主義からの転換」、「信頼」と「3つの覚悟」に基づいた外交・安全保障の順で、これまでに3回にわたって個別分野の政策について発表した。

 まず新型コロナ対策は、「コロナウイルスは非常に変異が早く、残念ながらゼロにはできない。当面、『季節性インフルエンザ同様、従来の医療提供体制の中で対応可能なものとして、通常に近い社会経済活動を一日も早く取り戻すこと』を目標」とするなど、現実的な認識に立つ。

 ワクチンのみならず治療薬の普及に全力を尽くすとともに、「人流抑制などの政府方針に納得感をもってご協力いただくため」としながらも、数十兆規模の経済対策を速やかに実施するとした。

 具体的には、事業規模に応じた家賃支援給付金・持続化給付金の再支給等の地域・業種を限定しない事業継続支援や、非正規・女性・子育て世帯・学生をはじめ、コロナで困窮する人たちへの給付金の支給などを行うとしている。自助を強調して、事業者や困窮する国民への支援に興味を示さなかった菅政権からの大きな転換である。

 だが、危機対応能力を強化するために「健康危機管理庁」を新設するとしているが、既存の枠組みや現行制度を生かす方法をまず検討すべきことを忘れて、霞が関の混乱も考慮せずに新しい「ハコ」を作るという、菅政権の悪癖を引き継ぎたいようだ。

 経済政策については、新自由主義からの転換を目指すとしたり、公益資本主義を標榜したりと、方向性としては菅政権からの転換であるし、「財政健全化の旗を堅持」するとしつつも、コロナ禍への万全な対応のための財政の積極的活用を提唱するなど、現実をしっかり捉えたものである。

 ただしその中身は、例えば、「中小企業の事業再構築・生産性向上・事業再編への支援」を記載し、菅政権の中小企業淘汰政策を継承するかのようであったり、デジタル政策が後戻りしないよう、規制改革推進会議を改組し、「デジタル臨時行政調査会」(仮称)を設置するとして、これまた“デジタル利権”目線の規制改革という菅政権からの流れに沿っていたりと、看板に偽りありとまでは言わないものの、総論として提唱していることと具体的措置に大きな齟齬が見られる。

 外交・安全保障政策については、おおむね安倍晋三政権からの流れの継承と言っていいだろう。

 全体として評すれば、特に経済政策については体系性と一貫性、そして具体性を欠いた、フワッとしたものでしかないが、いずれにせよ、岸田候補は、これまでの新自由主義・構造改革路線、緊縮財政一辺倒路線の修正を目指していることは確かだ。我が国の現状を考慮し、世界的な大きな政府への潮流を踏まえれば、岸田候補はそれに沿って、真の保守主義への回帰・転換へ動こうとしていると考えていいのではないだろうか。