ソーラーパネルの糸を布に織り込んでしまえば、
家を形成する布で、そのまま発電ができる

「織物の家」と言うと、人によっては「何ともバカなことを」と思うかもしれませんが、実際に移動しながらその都度、組み立てられる「布の家」というのは存在します。それはモンゴルの遊牧民が使用している「ゲル」というものです。中国式に「パオ」と呼ばれることもあります。

 これはテントと違って、直径が六メートルを超える立派な布の家です。表は帆布(はんぷ)で被われていて、その内側は断熱材としてのフェルトがはいっており、内部は美しい織物になっています。骨組み、構造は木でできています。大人三人で、二時間くらいで組み立てることができ、しかもマイナス二〇度を超える極寒の環境のなか、現地の人々はこの家で暮らしているのです。

 四季によって移動もできるので、遊牧民たちは砂漠を移動しながら、いつもその時々に「最も好ましい土地」で暮らしています。

 最先端のテクノロジーと長い歴史をもつ織物の技術が入ることで、さらにこのゲルを、誰でもが持てる「ホイポイカプセル」のレベルまで発展させることができないだろうかと。

 妄想から始まり、まずは何より移動式住居での生活を知らなければと、私は実際にモンゴルに出向き、二週間ほど遊牧民たちと共同生活をしてみました。

 遊牧民たちと暮らしてわかったのは、彼らは私たちが想像する以上に快適な生活をしているということです。彼らは、ラクダや羊の世話をする一方で、大陽光発電用のソーラーパネルとパラボラアンテナを立てて、電気をおこし、電波をひろい、インターネットで情報を集め、子どもたちは日本のアニメ『ワンピース』をYouTubeで観ていたりします。

 ただ、こうした機器は当然ながら、布製ではありません。だから環境負荷が全くないわけではないのですが、限りなく地球にダメージが少なく、柔軟かつスマートに暮らしています。

 妄想としての、織物の家。でも最近では、ソーラーパネルを糸にする開発をしているベンチャー企業もあります。

 そのうちに美しく機能的な織物の家を実現できるのではないか。ソーラーパネルの糸を一枚の布に織り込んでしまえば、家を形成する布でそのまま発電ができるようにもなります。

細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。