定年後に転職するために必要な
2つのこと

 では、実際に自分が定年後スムーズに転職するためにはどうすれば良いだろう?方法は2つある。一つ目は現役時代からなるべく社外に友人や知人を多く持っておくことだ。

 実は定年後に再雇用というのは比較的新しいシステムで、昔は定年になった後、年金を受け取り始めるまでの間、5年か10年は別の会社で働くのは普通であった。そしてその場合、働き場所をそれまで勤めていた会社が紹介してくれるわけでも、ハローワークで紹介してくれるわけでもなく、多くの人が自分のコネやツテで仕事を得ていたのだ。

 昨今65歳までの雇用機会提供が事業主の義務となり、さらに今年からは70歳までの就業機会の提供が努力義務化されたため、誰もが自分で仕事を探すということをやらなくなってしまった。ところが今から20年、30年前は定年後の第二の職場は自分で見つけるというのが一般的であったため、多くの人は現役時代からそういう人のつながりを持つ努力をしていたのだ。

 そして二つ目、これは意外かもしれないが、今の仕事を頑張ることだ。普通サラリーマンが仕事を頑張るのは、会社での評価を上げて出世するためにやると考えがちだ。もちろんそれはその通りなのだが、年齢が50歳を過ぎてくると、相当頑張ってもそこからの昇格はかなり難しいだろう。

 だから、多くの人は会社での出世は諦めてのんびりと仕事をするようになる。いわば、“働かないおじさん”化していくのだ。ところがいくつになっても自分が担当する分野で高い実績を上げ続けていけば、必然的に業界の中でも話題になったり名前を知られたりすることが出てくる。実際にそういう人を何人も見てきたし、彼らは定年後に、ライバル企業から請われて転職している。

 転職で一番うまくいくのは、こちらから売り込みに行くのではなく、向こうから“来てほしい”と頼まれるケースである。筆者自身も現役時代最後の部署は会社の中ではあまり注目されず、どちらかといえば窓際っぽい部署であったが、それだけに外部の人との交流も多く、その分野で頑張ったことで定年時に同業他社からのお誘いをいただいた。前述したようにそれは私のやりたい仕事ではなかったので、お断りしたが、もし当時の仕事を続けてやりたいと思ったら恐らく引き受けていただろう。

 このように発想を変え、社内での出世ではなく、自分自身の専門性を高めることで外部から注目されるまで頑張るということも重要ではないかと思う。そしてそうすることによって、定年後の新しい環境での仕事につながっていくのではないだろうか。

(経済コラムニスト 大江英樹)