“次期社長候補”と前評判が高い細見氏がファミマ社長に就任した直後のことである。伊藤忠ではアパレルビジネスで名を馳せ、スタイリッシュないでたちで商社マン然としている細見社長だが、コンビニビジネスのトップとしてはまだ新任だった。
 
 元社長の澤田氏は細見氏に対して「加盟店の重要度」について懇々と諭したというのだ。

 ファミマ本部の中堅社員が振り返る。

「澤田さんは前例のない改革プランを強行したことでいろいろ批判も受けましたけが、『加盟店ファースト』を掲げ、現場や加盟店を大事にしていたトップであったことは事実です。コンビニビジネスの“肝”は加盟店にあると考え、加盟店とLINEで直接やりとりをするほどコミュニケーションを重要視していた。ところが伊藤忠支配が強まる中で細見氏が新社長になり、ほとんど現場感がなくなってしまったのは残念なことです」

「伊藤忠からもバンバン執行役員クラスの社員が出向してくるようになった。いまでは伊藤忠内部で重要なことは決めて、決定事項としてファミマ社員に落とされてくるということが日常になった。トップダウンで施策が決められて現場に下りてくる。いずれも机上の空論のようなプランばかりで、何も知らされていない現場はそのたびに混乱するという事例が多くなりました」

 細見社長が「顧客に対して新しい購買体験を提供できる」と語り、鳴り物入りで始まったのがサイネージ(電子看板)事業だ。サイネージ事業は全国のファミマ店内に複数台の大画面サイネージを設置し、エンタメ情報やアート、ニュース等、映像コンテンツを配信するビジネスである。広告収益による増収が期待されており、ファミマは22年春までに3000店舗にサイネージを展開する予定だとしている。

「サイネージ事業は伊藤忠主導のプロジェクトで、やはりファミマ社員には何も知らされないまま下りてきたと聞きました。大画面サイネージを安全に設置するためには、店舗の躯体をいじる必要があります。そのためには家主の許可が必要となるので準備には一定の時間がかかる。それなのに来春には3000店舗という数字だけが一方的に発表され、建設部隊など現場が大慌てで対応に追われているという状況なのです。こんな状態なので、来春に3000店舗にサイネージが設置できるとは誰も思っていません」(加盟店関係者)

 また、伊藤忠主導によるサイネージ事業には別の形でも異論の声が上がっているという。前出のファミマ社員は、システム障害も「塚本氏(直吉・取締役専務執行役員)がシステム本部長を離れた途端に起きた」トラブルなのだと指摘し、こう続ける。

「システム本部長から新たに商品本部長に就任した塚本取締役もサイネージ事業には難色を示しているとうわさされています。サイネージ広告ではいろいろな企業広告を配信するはずですが当然、営業がしやすいファミマの取引先メーカーもターゲットとなる。すると商品のメーカーからは『サイネージに広告を出したのだから販売促進キャンペーンを控えさせてほしい』と要求されるケースが出てくる可能性がある。本来、加盟店の利益になるはずの販売促進などのメーカー協力金が、サイネージの売り上げに回されて伊藤忠に吸い上げられてしまうことを塚本氏らは悩んでいるのではないかと想像します」