「けいれん」とワクチンには因果関係なし
名古屋市立大学医学研究科、公衆衛生学分野の鈴木貞夫教授が3万人のデータを解析したところ、ワクチン接種と当時話題になった「けいれん」などの症状の間に因果関係はなかったと証明されました(※4)
新型コロナウイルスワクチンの「副反応報道」でも見受けられましたが、一部の声をメディアが大きくとり上げることで、正確な全体像が把握しにくくなります。
例えば、逆にワクチンを打たずに子宮頸がんに罹患した末期患者さんがいたとします。性器からの出血が止まらず、輸血を繰り返し、両親に見守られながらこの世を去ってしまう。病院では珍しくありません。どの側面を切りとるかで見え方が変わってくるからこそ、データにもとづいた冷静な判断が必要なのです。
女性が1万人いたら、そのうち子宮頸がんになる割合は132人。それに対し、予防接種の有害事象が出現する割合は5人と大きな開きがあります(※5)
子宮頸がんになれば、ほとんどの場合子宮を摘出しなければいけません。命を落とすこともあります。しかし有害事象であれば回復するケースが大半です。HPVワクチンの有効性を認識してもらえるのではないでしょうか。論点をまとめると、
①「予防接種を受けなければよかった(ワクチン接種後に症状が出現した)人」より、「予防接種を受けておけばよかった(ワクチンを打たずに子宮頸がんに罹患してしまった)人」のほうが多い
②予防接種後に起きた出来事とワクチンとの因果関係は証明されていない
③世界では「HPVワクチンが普及すれば子宮頸がんの根絶ができる」見込みがたっている
私はこの3点からHPVワクチンの接種を勧めています。先述したように「推奨」はされていないものの、定期接種自体は行われています(現在の定期接種は小学6年生から高校1年生のみ)。高額ですが、自費接種も可能です。
このHPVワクチンの効能は45歳までは証明されています。40代前半の方はまだ間に合います。
検診も受けて、さらに対策!
そしてワクチンを接種した人はもちろんなのですが、特にその期間にワクチンを打てなかった人は「子宮頸がん検診」を受けるようにしましょう。アメリカ予防医学専門委員会では5年ごとの「細胞診」と「HPV検診」が推奨されています(※6)
細胞診とは、子宮の入口である「子宮頸部」をブラシでさっとこすって細胞を採取し、顕微鏡で異常な細胞が存在しないかどうか確認する検査です。またHPV検診はその名の通り、子宮頸がんの原因となるタイプのHPVが存在しないかを確認するものです。
子宮頸がんは別名「マザー・キラー」と呼ばれており母親世代・中年世代の女性にとって絶対に警戒しなければならない病気です。正しい情報をもとに、正しい子宮頸がん予防を行ってください。身近な人にぜひ教えてあげてください。
【出典】
※1 Jiayao Lei,et al. HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1340 1348.
※2 Nubia Muñoz,et al.Against which human papillomavirus types shall we vaccinate and screen? The international perspective. Int J Cancer. 2004 Aug 20;111(2):278-85.
※3 Michaela T Hall,et al. The projected timeframe until cervical cancer elimination in Australia: a modelling study. Lancet Public Health. 2019 Jan;4(1):e19 e27.
※4 Sadao Suzuki,et al. No association between HPV vaccine and reported post vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study.Papillomavirus Res. 2018 Jun;5:96 103.
※5 第48回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和2年度第4回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会
※6 Virginia A Moyer,et al. Screening for cervical cancer: U.S. Preventive Services Task Force recommendation statement. Ann Intern Med. 2012 Jun 19;156(12):880 91,W312.
(本原稿は、森勇磨著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を編集・抜粋したものです)