トランプ政権に始まるアメリカのこの方策は功を奏しており、ファーウェイは5G網敷設を生業にしながら、自社製の5Gスマホを作れないというジレンマに陥っている。中国とすればTSMCの本体がある台湾は文字どおり喉から手が出るほど欲しい存在であり、その分台湾侵攻への意欲を高める動機にもなっていると考えられる。

 インド太平洋軍司令官(当時)のフィリップ・デービッドソン氏が今年3月の上院軍事委員会公聴会で、「中国が台湾を6年以内に侵攻する可能性がある」と述べて、世界に衝撃を与えた。同月、次期司令官のジョン・アキリーノ海軍大将(当時)は6年以内という数字には賛同しなかったものの、「台湾有事はこれまで考えてきたよりもはるかに切迫しており、中国はそのための軍事兵器や軍事システムを急ピッチで増強している」と証言している。

 この「6年」という数字は、習近平主席の3期目の任期から割り出されたものだ。習主席はもともと台湾併合の能力があるゆえにトップに上り詰めた人物であり、これまでの慣習を破った3期目を果たす以上、その正統性を示す必要に迫られる可能性がある。それをどれほど重くみるかで、「6年以内の台湾有事」の可能性への評価が変わる。

 AIやスーパーコンピューターなどの最先端技術は軍事技術に直結しているが、それを支えるのが高性能半導体であることは言うまでもない。習指導部は2050年までにアメリカの覇権に取って代わることを明言しており、台湾併合を実現することがそのための一つの課題となりうる以上、できるだけ早い時期に台湾併合を実現したいと考えるのは当然だろう。

非核保有国である
オーストラリアの大転換

 9月15日に発足したAUKUS(オーカス)は、アメリカ、イギリス、オーストラリアの3カ国による軍事同盟である。「規則に基づく国際秩序という持続する理想と共同の約束に従い、インド太平洋地域における外交・安保・国防協力を進化させていくことにした」と説明しているように、南シナ海などの海洋進出において国際法を無視しつづけている中国をけん制することが主な目的になっている。

 AUKUSにおいては、アメリカとイギリスがオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を提供することを明言している。これによって、オーストラリアがフランスと結んでいた約4兆円の巨大プロジェクトであった潜水艦製造契約が破棄されることになり、フランス政府は米豪の両国大使を呼び出して説明を求める異例の抗議を行っている。

 AUKUSの基本合意は今年6月のイギリスでのG7(主要7カ国首脳会議)で行われていたことをイギリス紙「テレグラフ」がすっぱ抜いている。つまり、G7に参加したフランスのマクロン大統領に知らされず秘密裏に行われた。そして、あとでフランスが激怒することを見越した上で発表しているのである。それだけに3カ国の本気度はかなり高い。

 オーストラリアが原子力潜水艦を保有する意味は大きい。オーストラリアはもともと南太平洋非核地帯条約の加盟国であり、労働党政権時代に核を持たないことを宣言しているが、AUKUSはオーストラリアが「非核国」からの脱却を図ったものだ。これはオーストラリアにとって安全保障上の大転換と言っていいだろう。

 現在、安全保障の中心は大陸から海洋にシフトしている。特に米中が対立するハワイ以西の太平洋とインド洋が軍拡の表舞台となっており、台湾が発火点となって紛争に発展する可能性が高まっている。