他人と比較して、できないことで自分を貶め凹んでしまい、
心を病んでしまう人が少なくない
たとえば、速記をするのが、ものすごく上手な人がいたとしましょう。人の話を、聞いたそばから、手帳などにほぼ全部メモしていける能力。普通に便利です。
ところが、そんな人が「自分の周囲の人がやっている、パソコンのタッチタイピングができない」とめちゃくちゃ、悩んでいたりもするのです。
「それ、速記で補えそうだし(工夫すれば)別にいいんじゃない?」と伝えても、そういう精神状態の人は、自分のできることはなぜか無視してできないところばかり強調し、自分にダメ出しをしやすいもの。これと同じようなことで自信を失っている人は多いのです。
ご飯も美味しくて、お掃除もしっかり、洗濯なども上手に時間配分してやっている主婦の方が、「友人がインスタグラムで上げているような可愛らしいお弁当がつくれません!」と自分を卑下していたり、事務的な能力がものすごく高くて「あの人のつくる資料が一番見やすい!」と皆に評価されているビジネスパーソンが、「同僚のように上手にセールストークができないんです……」と嘆いていたりします。
皆自分のできるところを全部無視して、他人と比較して自分を貶め凹んでしまい、最悪なケースでは心を病んでしまいます。
これは本当にもったいない話ですが、本人は至って真剣に「だから私はダメ人間なのです」と口を揃えて診察室で訴えられます。
見方をほんの少し変えるだけで問題は解決するんですが、こういう細かい誤解の積み重ねがあることを、ご本人が納得するまでには時間がかかります。
POINT:
人には得手・不得手がある。自分が苦手なことでがんばる必要はない。
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー4万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。