解像度の高い未来像を描き、伝えるために
――いったん外に出さないと社内が変わらない、という話には、非常に納得感があります。私は新規事業のコンサルティングに携わることが多いのですが、いいサービスを開発しても、営業部門がなかなか売ってくれない。そこで、いったん別ブランドで市場に出すと、お客さんから引き合いが来て、ようやく営業が動きだすことがありますよね。SF思考もそうかもしれません。
株式会社BIOTOPE・CEO / Chief Strategic Designer
東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gにて、ファブリーズ、レノアなどのヒット商品のマーケティングを手がけたのち、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わったのち、独立。B to C消費財のブランドデザインや、ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。著書に『直感と論理をつなぐ思考法』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』などがある。大学院大学至善館特任准教授・多摩美術大学特任准教授。 Photo:BIOTOPE
ただし、外部の誰に、どういう表現でインパクトを与えるか、という部分は工夫が必要です。イノベーター理論でいうところの、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティー、レイトマジョリティーそれぞれで、ヒットするポイントが違うのです。イノベーターにはゴリゴリのハードSFでも響く、というか、中身が新しければ、むしろハードコアな方が響く。そして、文字だけのコンテンツが響くのはアーリーアダプターぐらいまでで、アーリーマジョリティーぐらいになると、イマジネーションをかき立てるビジュアル要素があった方がいい。例えばTEDみたいなコンテンツですね。さらにレイトマジョリティーにも広げたいなら、漫画か映画です。
――対象ごとに表現を変えつつも、ワクワク感は伝えると。
何にワクワクするかも人によって違うんですよね。感度の高い層はコンセプトだけでワクワクできるけど、マジョリティーは肌感覚までリアルにイメージできないとワクワクしない。実は、語られる内容がどんなにとがっていても、表現の解像度がめちゃくちゃ高ければ、あらゆる人に届きます。ただし、それができるのは宮崎駿レベルの超一流クリエーターだけです。内容のとっぴさと表現能力はトレードオフなんです。
そもそもとっぴな未来像を好むのは、新しいものに対する感度の高い人だけで、世の中には変化を嫌う人の方が多い。そういう人に「世の中が変わりますよ!」と伝えるだけで響くはずがありません。本当に社会を変えたいなら、最後の最後は、万人向けの分かりやすいフォーマットで、コンセプトが落とし込まれた社会の姿、そこに生きる人々の心理まで細かく描かなくてはなりません。
――SF思考は、まさにそれを目指した手法なんです。
はい。ただしフィクションは魔法のつえではありません。未来像を具体化するR&D部門やイノベーション部門、それを支える人材という土台が社内にあるからこそ、ナラティブが生きる。社内にそうした基盤がないのに、いきなり面白いストーリーを作ろうとするのは矛盾です。まずは解像度の高い未来を示せる人たちのコミュニティを社内に育ててほしい。それが未来づくりのアクションとして非常に重要だと思います。