Regional Studiesの重要性

 最近、日本と米国を代表する中国問題研究家それぞれから、同じ問題意識をご教授いただいた。

「Regional Studies(地域研究)をもっとしっかりやらないといけない。特に中国を語る際には、このアプローチが極めて重要になってくる」

 日増しにその台頭が注目され、警戒もされる中国。そこに生きる中国人を理解し、解読するためには、多角的、立体的、重層的なアプローチが必要になるのは言うまでもない。

 私は2人の先輩学者が伝えたかった真意は、「中国へ自ら足を運び、現地の人たちと衣食住を共にし、中国語で中国人の言っていることを理解し、草の根の交流を経た上で中国のことを語ろうとする人間があまりにも少なすぎる」ということだと解釈した。

 中国研究の分野ではまだまだ下っ端で未熟な私から見ても、中国語もろくに話せず、中国人と“ガチンコ”の議論を展開したこともない人たちが、中国の現状を堂々と語ったり、未来を予測したりしている。

 もちろん、中国を語ることは中国問題専門家の特権であるはずがないし、あってはならない。英語をはじめとした多言語による政策論議が活発に行われるべきであるし、日頃中国と直接かかわりを持たない人たちも好奇心をむき出しにして、積極的にディスカッションに参加していただきたい。チャイナ・インパクトはそこまで肥大化しているのだ。

 客観的分析という意味において、エコノミストが経済学的な観点から、減速傾向にある中国経済の動向を予測したり、安全保障の専門家が昨今における中国の軍事費二桁成長という事実から、中国の軍事的拡張政策を分析したりすることは必要だろう。

 ただ、上記のテーマをはじめ、各国関係者を悲観的にさせ、チャイナ・リスクにばかり目がいってしまう現状では、そのアプローチだけでは不十分だ。

 中国政府や人民がGDPという指標をどう認識しているのか、中国共産党が国家戦略全体の中で軍事政策をどのように位置づけているのかという点も、踏み込んで分析する必要がある。中国人と実際に交流し、現場の空気を吸い込んだ上で、歴史を振り返り、国が急成長し、大国として台頭する過程で施す政策や、それにまつわるリスクを判断するべきであるということだ。