執行部の力はいまだ強大
自民党の議員は勝ち馬に乗った

 菅政権の支持率が30%を切ったことで、自民党の議員たちが「このままでは自分たちは衆院選で落選するのではないか」と強い危機感を持って派閥の領袖に訴えたことで、菅さん(菅義偉前首相)が退任を表明し、自民党総裁選挙が行われた。

 総裁選の前の世論調査では、河野さん(河野太郎前ワクチン相)の支持率がずば抜けて高かった。しかし総裁選では伸び悩み、1回めの投票でも議員票86票、党員票169票の計255票と、岸田さんに1票差で破れて2位。議員票だけでみると、岸田さんが146票、高市さん(高市早苗元総務相)が114票と、高市さんにも破れてしまった。

 総裁選が近づくにつれ、決選投票となることや、その場合に岸田さんが有利であることが見え始め、自民党の議員が勝ち馬に乗ったということもいわれている。

 今回の総裁選であらためて、小選挙区制では自民党執行部の力が強大であることがわかった。河野さんが弱かったのではなく、安倍さんの影響力が強すぎた。小選挙区制では、選挙に当選するためには自民党執行部の公認が必要だ。だから自民党の国会議員の多くは執行部の有力者のイエスマンばかりになってしまった。

 現在の有力者は安倍さん(安倍晋三元首相)と麻生さん(麻生太郎自民党副総裁)。安倍さんが辞任するとき、「次は菅氏でいく」と決めたから、各派閥の領袖がそれに従い、菅政権は実質的に安倍政権の延長のような政権となった。

 今回の岸田政権でも、岸田さんが安倍さんに「幹事長は誰が適任か?」を問うと、「甘利(明)氏がいいだろう」と言ったので、2016年に金銭授受疑惑で閣僚を辞任したにもかかわらず、甘利さんを幹事長に任命した。

 そして安倍さんが総裁選で支援をした高市さん(高市早苗氏)を政務調査会長に、安倍さんの側近であった萩生田さん(萩生田光一氏)を経済産業相に起用。彼らは安倍路線を延長した原発再稼働の推進派だ。財務相には麻生派の鈴木さん(鈴木俊一氏)を起用している。

 党運営の中心である「党四役」の顔ぶれをみると、甘利明幹事長(麻生派)、福田達夫総務会長(細田派)、高市早苗政調会長(無派閥)、遠藤利明選挙対策委員長(谷垣派)と、岸田派がいない。官房長官の松野さん(松野博一氏)も細田派、いってみれば安倍派だ。ここまで派閥の領袖に気を使った組閣は非常に珍しく、マスコミは「安倍・麻生内閣だ」といっている。

――閣僚がガラリと変わり、岸田カラーを打ち出したようにみえても、「3A」と呼ばれる安倍晋三、麻生太郎、甘利明の3氏にとことん配慮した組閣となりました。

 それが国民にも伝わり、岸田政権の支持率の低さの要因の1つになっているのではないか。

――岸田首相にお会いしたことはありますか?

 それが、なかった。自民党の幹部で会ったことがないのは彼だけではなかったか。僕は何より一次情報を大切にする。だから直接、人に会う。自民党の宏池会も、大平正芳氏や宮澤喜一氏、加藤紘一氏など数多くの人に会ってきた。これをやろう、あれをやろうと発言の強い人には、詳しく聞くために会ってきたが、岸田さんはそのような発言はなく、幹部の中でもややおとなしい印象だ。これまで会って話す機会がなかったが、近々、会うことになっている。

次期参院選までに
岸田内閣がすべきこと

――衆院選はどうなると思いますか?

 今回、自民党は30議席前後、減らすのではないだろうか。ただ、菅政権のままであれば、70議席以上減るだろうという予想もあったから、それよりは傷は浅い。野党は議席を増やすことになるが、政権交代をしてどのような政治を行いたいのか、野党の構想がいまだに見えない。そのため国民は、自民党への不満は抱えつつも、今回の衆院選の時点では、野党に政権を委ねようという意思はほとんどないのかもしれない。

 重要なのは、来年に予定している参議院選挙だ。このままでは自民党はだいぶ負けることになる。安倍内閣の時はいろいろと問題はあったが、衆院選3回、参院選3回と、国政選挙で6連勝している。6勝0敗だ。

 なぜここまで強かったかというと、安倍さんは選挙のたびに「目標」をつくる能力が長けていた。そのため次回の参院選では、世論が注目するような目標を岸田さんが打ち出すことができるか、これが大きなポイントになると思う。それができなければ参院選で自民党が敗れ、岸田内閣は短命で終わるだろう。