積極財政こそが、財政を健全化させる

 ただし、米国の主流派経済学者たちは、財政健全化を無視しているわけではない。彼らは「積極財政こそが、財政を健全化させる」と主張しているのだ。

 ちなみに、財政健全化の指標は、「政府債務/GDP」とするのが国際標準である。

 例えば、ファーマンとサマーズは、ゼロ金利で不況下における財政拡張が、「政府債務/GDP」を縮小させると論じた。ブランシャールもまた、日本は低金利であるため、国債を増加させても、「政府債務/GDP」は緩やかに低下すると指摘している

 バイデン政権下で財務長官となったイエレンもまた、議会でこう証言した

「財政の持続可能性への道筋をつけるのに今できる最も重要なことは、パンデミックを克服し、国民を救済し、将来世代に便益を与える長期の投資を行うことです。(中略)過去の経験が示すのは、今日のように、経済が弱く、金利が低い時には、大統領が国民に与えようとしている援助や経済に対する支援のような行動は、短期的には大きな赤字でファイナンスされようとも、経済に占める債務の比率を下げることにつながるのです。」

 最近でも、G7の有識者パネルが、大規模な公共投資の必要性を訴え、「短期的視野に基づく赤字の削減は、それが教育のような人的資本への投資の削減になる場合には、対GDP比の債務を増加させる」と警鐘を鳴らしている

 実際、ユーロ危機の際、財政危機に陥ったユーロ加盟諸国は、徹底した緊縮財政により財政健全化を目指した結果、深刻な不況に陥り、「政府債務/GDP」はかえって悪化した(Elgaronlinewiiw)。

 それと同じ過ちを、日本は四半世紀も続けてきた。今になって、やっと政治がこの過ちを改めようとしているのに、矢野次官が立ちはだかったのだ。

 低金利・低インフレ・低成長という長期停滞の下では、積極財政が最も有効である。そして、大規模な財政出動により、「政府債務/GDP」は下がり、財政はより健全化する。

 これは、今や、主流派経済学のコンセンサスになったと言ってよいであろう。

 なお、私自身は、『奇跡の経済教室』でも書いたとおり、主流派経済学の支持者ではなく、日本は財政健全化を目指すべきとは考えていないが、それでも、このコンセンサスには結論において同意である。