10人に1人の「選ばれた才能」を活かすためには

──左利きの子どもを持つ親御さんにおすすめしたい訓練方法などはありますか。

加藤:聴覚のサポートができると、才能を発揮させやすいと思います。

 具体的には、読み聞かせをするのがおすすめです。私も幼い頃には、母や祖母によく昔話を話してもらいました。それほど長い時間ではありませんでしたが、眠りにつくまでの数分、昔話を聴きながら頭の中でイメージを膨らませていました。それがすごくいい訓練になったな、といまでは思います。一時は音読障害で悩んでいましたが、地道に音読するなどして、左脳を鍛えたおかげで、本や論文を書くことへの苦手意識もなくなりましたからね。

 そういった私自身の経験も踏まえて思うのは、やはり左利きであることにたいして引け目を感じさせない、萎縮させないというのが大事なのかなと思います。私の母も、左利きについて何も言わなかったんですよ。ネガティブなワードも聞いたことがなかった。

 だから、「周りの子よりも発達が遅いから、矯正した方がいいんじゃないか」と焦る親御さんがいたら、無理しなくて大丈夫ですよ、と伝えたいですね。

 どうしても大人は、子どもが早いうちからさまざまな語彙を使って話したり、漢字が書けるようになったりといった「言語能力の発達」に重きを置いてしまうことが多いので、左利きの子どもの発達が他の子よりも遅れていると、焦ってしまいがちなんです。でも、それはある程度仕方のないことなんですよ。

 右利きは左脳に集中しても日常生活に支障がないのに対して、左利きは右脳と左脳をどちらも並行して成長させなければならないわけですから。そりゃあ、多少言葉が話すのが遅れてしまってもしかたないと思いませんか?

──たしかに。でも逆に考えると左利きって本当にすごいですね。つねに左脳と右脳を平行して成長させ続けている、ということですもんね。

加藤:そうそう。それこそ、まさに私がこの本で伝えたかったことで。

 左利きって、個性の宝庫なんです。絵や画像、空間などの非言語情報を扱う右脳が発達しやすい左利きの才能は、どんなふうに出るかわかりません。すごく多様性があるんです。私の才能はたまたま脳内科医の仕事に活かされましたが、他の人がどうなるかはわからない。

 だから左利きの親御さんは、「この子の左利きの才能は、どうやって花開くんだろう?」とポテンシャルを引き出すことにフォーカスしてみてはいかがでしょうか。焦って周りに合わせ、左利きのよさを活かしきれないことほど残念なことはありません。

 左利きは右利き社会でのマイノリティではなく、10人に1人の「選ばれた人」なんです。この本を読んで、多くの人が自分の才能に目覚めてくれたら嬉しいなと、心からそう思います。

【大好評連載】
第1回 「左利きは右利きに矯正すべき?」脳内科医が明かすメリット・デメリット
第2回「左利きには天才が多い」脳内科医が断言する納得の理由
第3回 左利きの才能「活かせる環境、そうでない環境」決定的な差
第4回「左利きは繊細な人?」脳内科医が明かす驚きの事実

「左利きは右利きに矯正すべき?」脳内科医が明かすメリット・デメリット加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。
株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
「左利きは右利きに矯正すべき?」脳内科医が明かすメリット・デメリット