茂木幹事長起用の残り2つの理由
「防波堤」と岸田首相の「野望」

 茂木氏を幹事長に起用した二つ目の理由は、「防波堤」の役割にある。

 経済再生相時代、数年かかるといわれた日米貿易交渉を短期間でまとめ、米国のドナルド・トランプ前大統領から「タフネゴシエーター(手ごわい交渉相手)」と呼ばれた茂木氏。岸田氏が9月の自民党総裁選で掲げた「比例73歳定年制の堅持」などの党改革は、利害関係者の調整が難しいとされている。「そこで同僚議員にも容赦しないタフネゴシエーターが生きる」(政府関係者)というわけだ。

 首相は11月1日、茂木氏との会談で「党改革を具体的に、大胆に進めてほしい」と念を押している。加えて、高市政調会長をはじめとする保守派議員から「タカ派色」の強い要望が首相官邸に届けられたとしても、政界屈指の政策通として知られる茂木幹事長であれば、それらを押し返すことができるとの読みもある。

「人望がないとされる分、茂木幹事長を恐れている議員も多く、岸田氏にとっては大きな防波堤の意味をなすでしょう」(全国紙記者)と見られているのだ。

 そして、最後の理由は岸田氏自身の「野望」にある。

 茂木氏の幹事長就任に伴って空席となる外相ポストについて、首相は11月10日に予定する次の組閣まで自らが兼務する考えを示した。12年12月の第2次安倍政権発足から17年8月まで外相に就いていた岸田氏には「外交は総理大臣である自分がやる、との思いが強い」(外務省幹部)とされる。

 とりわけ、外交通を自負する首相が高い関心を持っているのが北朝鮮問題だ。外相時代に対北朝鮮外交の要諦は心得ており、日本人拉致問題の解決を目指そうとする意欲は強い。

 ある全国紙政治部記者は「消息筋によれば、年内に茂木外相が北朝鮮を電撃訪問する可能性も大いにあった。幹事長職とはいえ、もう少し外相を続けたかったはず。『外交の岸田』をアピールしていきたいということでしょう」と語る。

 線が細い、政策は焼き直しばかり、「聞く」だけで決められない男、といった声も向けられる岸田首相。わずか1カ月での幹事長辞任と「タフネゴシエーター」の就任という荒波の到来は、汚名返上の好機となるのだろうか。