ダイハツの製品企画部エグゼクティブチーフエンジニアの仲保俊弘氏は会見中、何度も「良品廉価」という言葉を使い、「ダイハツらしいクルマづくり」を強調していたのが印象的だった。

 技術的には、e-SMART HYBRIDを「エンジンを発電専用とし、100%モーター(駆動)で走行するシリーズハイブリッド方式」であると指摘し、ハイブリッド車を大きく3つの方式に分類して説明した。

 ダイハツの説明資料での表現を使うと、ハイブリッド方式の一つ目は、バッテリーから電力を供給されるモーターが、エンジンの動力をアシストする「パラレル方式」だ。これは、一般的にはマイルドハイブリッドと呼ばれることが多い。構造は比較的簡素であるためコストメリットもある。

 補足すると、近年では欧州を中心に48Vバッテリー化によるモーターの出力とトルクアップを行う事例が増えた。日系では、マツダが2022年に導入するFR(後輪駆動車)で新開発直列6気筒SKYACTIV-D(ディーゼル)48Vマイルドハイブリッドを日本で発売することが決まっている。

 次に、「シリーズ・パラレル方式」は、エンジンを発電用と走行用の両方で使用するもの。代表例は「プリウス」だ。性能は高いが構造がやや複雑になる。プリウスは1997年登場以来、機能部分の小型化やコスト削減に対して常に進化し、その技術を他のトヨタ車向けに横展開してきた。

 そして、新ロッキー、ライズで採用するのが、「シリーズ方式」だ。

e-SMART HYBRIDの特徴は3つ
最大ポイントは「良品廉価」

 ダイハツはシリーズ方式の特徴として「エンジンが発電専用なのでパワートレイン全体としてシンプルでコンパクトな構造であること、さらにモーターの特性で低中速に強く、小さなクルマに適したハイブリッドシステム」と説明した。

 競合になるのは当然、日産「e-POWER」である。

 e-SMART HYBRIDのセールスポイントは大きく3つある。

 一点目は、電動感だ。従来の直列3気筒1.0Lターボと、アクセルの踏み具合(アクセル開度)が同じ状態で比較して、出足加速がよく、発進時加速度を約2倍と表現した。そして、アクセルの踏み・戻しだけで加減速を快適に行えるスマートペダルを採用。こうした考え方は日産e-POWERにかなり近い。また、e-SMART HYBRIDでは停車状態から時速40キロまでモーター走行し、遮音材・防音材を適材適所に配置して静粛性を考慮した。

 二点目は、低燃費だ。燃費の世界標準規格であるWLTCモードでリッターあたり28.0キロとした。小型SUVハイブリッド車のトップレベルで、従来の1.0Lターボ比で約50%も燃費が向上している。ちなみに、日産e-POWERでは、コンパクトカーの「ノート」のベースグレード「F」(2WD)でリッター29.5キロである。

 そして三点目は、こうした最新技術と低燃費という良品を廉価としたことだ。

 発電機専用として使うのは、新開発「WA型」エンジンをハイブリッド用に最適化した「WA-VEX」。通常のガソリン仕様との部品共通性を高めてコストを抑え、ベースモデルの新車価格は、211万6000円である。

 一方のノートFグレードは205万4800円だ。

 ロッキーとライズはサイズの大きなAセグメントSUVであり、またノートはBセグメントコンパクトカーという、商品分類での違いがあるが価格はかなり近い。

 なお、今回提示の資料では、プラグインハイブリッド車はシステム上、EVに近いためダイハツの説明資料には含まれていなかった。

現物を見て開発者に聞いて分かったこと
トヨタとの部品共通性、e-POWERとの違い

 オンライン会見が開催された3日後、ダイハツ東京支社内に出向き新ロッキーの技術展示を見た。

 小型車SUV向けとしてエンジンと連結するトランスアクスル内部は、ギア構造を工夫してかなりコンパクトに仕上がっているのが分かった。並列配置する2つのモーターは「トヨタの量産車と共用」(ダイハツ)という。

 トランスアクスルの上部には、ハイブリッドシステムを制御するパワーコントロールユニット(PCU)があるが「トヨタの量産向けを応用した専用設計」としている。

発電機として使う直列3気筒1.2Lエンジン発電機として使う直列3気筒1.2Lエンジン。トランスアクスルの上部には、ハイブリッドシステムを制御するパワーコントロールユニットがある Photo by K.M.

 電池については、こちらもトヨタ量産車向けのリチウムイオン二次電池と部品共通性を高めた。資料で記載されている電気容量は4.2Ahで「電圧を踏まえると約0.74kWh」との説明だった。

 ここで話を再びオンライン説明会に戻すと、筆者は質疑応答で次のような質問をした。

「“エンジンをできるだけかけない技術”について聞きたい。シリーズハイブリッドの肝であるとして、競合他社(日産)でも重点を置いて改良を進めてきた。例えば、路面が荒れている場所など、車外音が大きい時に積極的にエンジンかけるといった手法がある。ダイハツも、同じような思想なのか?もしそうならば、技術的にどのような仕組みなのか?」

 これ対して、ダイハツの仲保氏は「ご指摘の通り、できるだけエンジンをかけないことで燃費向上する。車内の静粛性と燃費とのバランスが大事だ」と回答した。

 これをパワートレイン開発担当者が補足したが、制御の詳細は開示せず、「競合他社(日産)のような、車外音の大きさに連動した技術は採用していない」と説明した。

 また、基本的にエンジン(発電機)始動のタイミングは、「車速が高い時に多く充電し、低い車速の際に放電する」という一般的なシリーズ方式の考え方を示すにとどめた。

 以上のようなダイハツの説明を聞く限り、e-SMART HYBRIDと日産e-POWERとの差は、使用するシチュエーションを“どのように絞り込んで、コストとのバランスをとるのか?”という点だと思う。

 日産e-POWERの場合、ルノー・日産・三菱アライアンスの中で今後、海外市場での展開を拡大することで、さらなる量産効果を狙う。

 日産とのe-POWER関連でのオンライン意見交換を行った際、日産はe-POWER用のエンジン(発電機)の排気量アップ版の市場導入についても明言している。例えば、2022年発売が予想されるSUVの新型エクストレイルでは、現行ノートの1.2Lから1.5Lに拡大しさらにターボチャージャーを装着して出力とトルクを大幅に上げた仕様となる可能性が高いと、筆者はみる。

 一方のダイハツは、e-SMART HYBRIDについて、今回のオンライン商品説明会の冒頭に、「CO2総排出量の低減効果が大きい車種から優先的に展開。ロッキー、ライズから投入し、速やかに軽自動車へも展開する」と指摘した。

 記者からは「軽自動車への展開も、シリーズハイブリッド方式ということか?」との確認があったが、それについて仲保氏は軽自動車向けをシリーズハイブリッド方式とは限定せず、広義でのハイブリッド技術を活用するという説明にとどめた。

 新ロッキー、ライズの報道陣向け試乗会はまだもう少し先になりそうだが、実際に走行した上で、e-SMART HYBRIDと日産e-POWERとの体感の差をご紹介したいと思う。