無理筋な抜擢は
本人にも組織にもダメージ

 組織運営上の観点から見ると(3)は難しい。抜群の功績があれば、社内の納得性もあるのだが、ちょっと賢そうに見える、ちょっと英語が流暢、ちょっとプレゼンがうまいくらいのお兄さんかお姉さんがどんどん出世したら、他の社員は「やっていられない!」という気持ちになる。

 多くは、デジタル系、M&Aとかをやる戦略系、海外ビジネス系など特定の領域で、特別に早く出世する人が出現する傾向にあるのだが、そもそも、普通の日本企業の場合は、自分で事業部や職種を選んでいない。会社が選んで配属した結果、その領域にたまたまいた人が、「希少性が高く、競合に抜かれないためには、権限や報酬も上げざるを得なくなり、昇格させます!」と特別扱いされるのだとすれば、いやおうなく不公平感も高くなる。

 もし本当に抜擢をどんどん行いたいのであれば、(4)のほうがましだ。もちろん内定式もなしで、である。ただし、こちらの仕組みは、ついばみ序列で作られていたような組織の安定性を欠く。新しいポストを巡って、社内的な戦いが常に生まれ、敗者は他へ去っていくだろう。

 こうした状況では、(2)でもつらいが、(3)における年下上司は特につらい状況になる。年上部下も納得して働いてくれないかもしれない。ではどうすればよいか。身もふたもない話なのだが、結局、実績を作るしかないのである。

 スポーツでも芸能でも期待の若手が功績のある年長者を押しのけてポジションを獲得すると、外野からすさまじいバッシングを受ける。ただ、実績を示し、周りも「なるほどあのポジションにいるべき人だったのだ」と認識すれば急速に対応が変わる。追い越された年長者も当初プライドは傷つくが、年下上司が優秀であれば、最終的には納得する。しかし、それでもやっぱり年下上司は嫌だという人もいるだろうから、それなら別の部署に変わってもらえばよいだけだ。

 頑張ってはみたものの、実績が作れないとすればどうだろうか。当人がつらいだけでなく、会社の人事システム全体の信頼性も損なわれる。そして当人は、居場所がなくなり転職してしまう。実績もなく、期待値が抜群に高くもない人を、少々希少価値があるからくらいの理由で無理に抜擢してもろくなことはない。抜擢していいのは、本当に期待値の高い人だけである。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)