「世界の真ん中で輝く日本を次の世代に引き渡していくために、党内最大の政策集団として皆さんとともに、その責任を果たしていく」

 細田博之元官房長官の衆議院議長就任に伴い9年ぶりに派閥に復帰し、党内最大派閥の新会長に就いた安倍元首相。11月11日には、自民党が党是とする憲法改正や外交・安全保障政策などの分野で自らが中心となって牽引することに強い意欲を示した。

 先の総選挙で数を減らしたとはいえ、所属議員が90人を上回る安倍派は、麻生太郎党副総裁が率いる第2派閥の麻生派(志公会)の2倍近い勢力を誇る。第5派閥となった岸田派(宏池会、42人)会長の岸田氏からすれば、政権運営の安定のためには無視できない一大勢力だ。

 安倍氏も「われわれ、最大の政策グループですから当然、岸田政権をしっかりと支えていく背骨でありたいと思っています」と派閥の勢力を背景に影響力を誇示することを忘れない。

安倍元首相に吹く逆風
甘利氏は失脚、岸田首相とすきま風…

 9月の自民党総裁選では、岸田新総裁誕生の立役者として麻生氏や甘利明前党幹事長とともに「3A」と評され、安倍氏は「令和のキングメーカー」の異名を持った。盟友の2人がそれぞれ党内で副総裁、幹事長に就任し、党役員・閣僚人事や政策面で絶大な影響力を保持できるとの計算が働いていたに違いない。

 だが、安倍氏が強く期待した萩生田光一氏(経済産業相)の官房長官起用や高市早苗氏(党政調会長)の幹事長抜擢という人事案はことごとく岸田首相に採用されず、甘利氏の幹事長辞任で岸田政権とのパイプも細くなった。宏池会の流れをくむ麻生派と岸田派などが合流する「大宏池会」構想が実現し、安倍派に匹敵する勢力が誕生すれば、安倍氏の優位性は脅かされかねない状況を迎えることになる。

 11月17日、安倍氏は「すきま風」が吹いている岸田首相を衆院議員会館の事務所に迎え入れ、外交や経済政策などについて約30分間の意見交換を行った。しかし、その6日前に菅義偉前首相が首相官邸に出向いて岸田首相から「厚遇」を受けたのとは対照的だ。

 宏池会所属の中堅議員は「安倍氏はタカ派の代表格で、ハト派の岸田氏と本質的に合うはずがない。安倍氏が『党内最大、最大』というから、反目に回られない程度に岸田氏が出向いて行ったということではないか」と推し量る。2人の距離感はなかなか縮まりそうにはないのだ。