複雑かつ広域化する経営の場
第3回で解説したように、アーキテクト思考とモノづくり思考、川上と川下では見える景色が異なります。
20世紀の日本の強さを築いたモノづくり思考では現場・現物・現実といった具体が重視されたのに対して、いま求められるアーキテクト思考ではコンセプトを構想するための抽象が重視されます。決まったゴールに最短でたどりつく能力よりも、ゴール自体を設定する能力が問われます。
この変化は、経営を行う場を構成する時間軸と空間軸が当時とは大きく異なることに起因しています。時間軸の観点でいうと、現代は目の前の顧客の問題を解決することで日銭を稼ぐと同時に、50年先、100年先の地球環境のことにも配慮した経営を行わなくてはいけません。一方で、創業者が長年にわたり舵を取っていた時代は終わり、今では上場企業の経営者の平均在任期間は5-6年といわれています。
空間軸は様々な方法で表現できますが、一つはグローバル化が進展し、地域的な広がりが増したことが挙げられます。既に物質的に満たされている先進国と、多くの社会課題を有する新興国の消費者を一様に捉えることはできませんし、従業員が人生で実現したいことや会社に期待することも国によって大きく異なることはいうまでもありません。
また、実体空間のみで完結していた事象がデジタル空間にも広がり、現在はデジタル空間が実体空間を内包するほどに拡大していることも、空間軸の変化を顕著に示しています。