銀行への公的資金注入が
難航した理由

 こうした事態に陥った日本では、政府が銀行の増資を引き受けること(「公的資金の注入」と呼ばれた)によって銀行の自己資本を増やし、銀行が貸しても良い金額を増やすことによって、貸し渋りを解消しようとした。

 しかし、「銀行は貸し渋りをしてけしからん。その銀行を助けるために国民の血税を使うとは何事だ」という反対運動が盛り上がり、政府による公的資金の注入は難航したのである。

 中国は、民主主義ではないので、国民の反対があっても政府が公的資金注入を断行することが日本よりは容易かもしれないが、中国政府も国民の声を無視することができないとすれば、同様のことが起きたとしても不思議ではない。

日本は不況に陥るも
他国への影響は限定的

 銀行の貸し渋りなどによって、日本経済は深刻な不況に陥った。しかしその影響は、おおむね日本国内にとどまった。日本円の世界で信用収縮(金の流れが滞ること)が起きても、日本円の流通範囲は日本国内が中心なので、他国への影響は限定的だったのである。

 もう一つ、日本は輸出大国だった一方で輸入は多くなかったため、日本の景気が悪化して輸入が減っても、世界経済への影響は限定的であった。

 中国の場合には、人民元の信用収縮が起きても他国への影響が限定的なのは日本の場合と同様であろう。しかし、輸入金額(および外国企業による国内生産)は巨額なので、景気悪化に伴って輸入や消費が減れば、外国経済への影響が深刻なものとなることが懸念される。

 ちなみに、リーマン・ショックにおいても日本とほぼ同様のことが起きたのだが、世界経済への影響ははるかに深刻であった。ドルが基軸通貨として世界中で使われていたことと、米国の輸入額が巨額であることから、世界経済はダブルパンチを食らったのである。

 それと比べると、中国の場合は「シングルパンチ」であろうから、リーマン・ショックの再来というほどのショックにはならないだろうが、それでもある程度の影響を覚悟しておくべきではないだろうか。

 本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織などとは関係がない。また、わかりやすさを優先しているので、細部は必ずしも厳密ではない。