中田氏は、問題点を三つに集約する。「適切な情報の提供」「きちんとした品質の担保」「良い物を確実に買える仕組み」。これらが伝統産業には決定的に欠けているというのである。
「この三つは、生産者と消費者を結ぶために不可欠なものです。どれが欠けても、消費者と生産者はつながらなくなる。
伝統産業の当事者たちは、この三つのポイントを確保し、自らが作った製品を『マーケットに委ねる』のではなく、自分たちで『マーケットを創る』気概を持つことが必要なのです」
ワインの歴史と文化を
とことん追究する意義
では、そのために何から始めればいいのか。最もシンプルなアプローチは、前例に学ぶことだろう。
日本酒の場合、同じ醸造酒であるワインがその前例になり得る。「ワインが世界規模に普及した背景や、その歴史と文化をとことん追究することで、日本酒の振興、世界進出の足掛かりを得られるはず」と中田氏は言うのだ。
というのも、世界中で食中酒として親しまれるワインだが、現在のポジションは決してその味わいだけで築かれたわけではない。歴史上のどこかのタイミングでワインが急においしくなったからではなく、ワインを取り巻くさまざまな人々の取り組みがあり、それらが仕組みとなって広がって今のマーケットが創られた。
ここが、中田氏が喝破する、最も学ぶべきポイントだ。
ワインの普及の歴史をひもとくと、古代の地中海沿岸に生まれ、中世にヨーロッパ全域に広まっていく過程においては、キリスト教の影響が大きかったのは明らかだ。地続きである北アフリカとヨーロッパにかけて、製造技術ともども国を超えて伝播していった。さらに15世紀の大航海時代には、ポルトガル、スペインがキリスト教の布教とともに世界中に広めた。
「日本酒と違うのは、ワインの場合はこのように、早いうちから『遠くに運ぶこと』が前提になっていたことです。だからこそ、温度管理はもちろん、ワインセラーのような専用の保存装置も開発されたわけです」