それと同時に温度管理は大変重要になります。今では酒造りと貯蔵管理は別々の場所で行っています。かなりの敷地面積は必要になりますが、こだわりの結果だと思っています」

日本酒は生鮮食料品と同じ
パートナーにもその理解を求めたい

 黒龍酒造が2018年に発売したブランド「無二」。兵庫県東条産の山田錦を35%まで磨き、霊峰白山水系の九頭竜川の清澄な伏流水を使い、同蔵の技で醸した純米大吟醸原酒を「氷温熟成」(*)させたものである。この限定酒は「日本酒にヴィンテージを味わう時代の到来」として人気を博した。市場販売価格が1本数十万円の値がつく逸品だ。ただ、これを得意先に届けるには氷温庫の準備が必要なのである。「なぜ?」といった声もあったようだが、水野氏はこう諭したという。

「日本酒は生鮮食料品と同じと考えています。いくら美味しい魚や野菜でも、そのまま放置していると品質が劣化してしまいます。日本酒もそれと同じです、とお伝えさせていただきました。日本酒の価値を理解いただけ、同じ気持ちで啓蒙してくださるパートナーの方々にしかお届けしておりません」

 いくら高額な日本酒であっても取引先を限定してしまえば、黒龍酒造としての売り上げも安定しない。しかしながら、そこに執着することで、日本酒の価値が広まり、日本酒の価格が適正化され、日本酒造りの技術が向上すると水野氏は考えている。これは海外で日本酒を定着させるにも同様の手法があると水野氏は言う。次回、その言葉の背景を聞く。

*氷温とは、0℃以下からそれぞれの食品が凍り始める温度(氷結点)までの温度域のこと。氷温、氷温熟成はいずれも公益社団法人氷温協会の登録商標。