「コンプレックス」や「弱み」ではなく、「未来」に目を向ける

紛争地帯でもぶれない、仕事と人生の「軸」の見つけかた――国境なき医師団 村田慎二郎×『絶対内定』藤本健司対談(1)藤本健司(ふじもと・けんじ)
我究館館長
千葉大学教育学部卒業後、(株)毎日コムネット入社。営業に配属され、2年目に優秀社員賞、3年目に社長賞を受賞。2012年「世界の教育問題に対峙したい」との思いから、青年海外協力隊としてケニア共和国で活動。3年間、JICAや現地の省庁と連携し、児童福祉施設における情操教育やカウンセリングに携わり、「人は志や気づきによって大きな成長を遂げられる」ことを実感する。2016年より(株)ジャパンビジネスラボに参画。我究館学生校の主担当コーチとして大学生をサポート。2017年10月より副館長を務め、2021年5月より現職。外資系投資銀行、コンサルティングファーム、総合商社、広告代理店など、難関企業に多数の内定実績がある。著書に「絶対内定」シリーズがある。

村田 思えば、当時の私はコンプレックスの塊でした。大学受験でも、1回目は失敗して浪人していましたし。高校3年生のときに全然勉強していなかったから、当たり前といったら当たり前なんですけどね(笑)

藤本 遊び回っていたんですか?(笑)

村田 いや、机に向かっている時間自体は長かったんですけど、実は全然集中していなくて、ただただ時間だけを過ごしていた……という感じですかね。一見真面目なんだけど、中身が伴っていないというか。浪人しても結局、第1志望の大学には合格できませんでした。

そんな自分のことは、自分がいちばんよくわかっています。いつの間にか「自分には、あまりすごいことはできないんだ」と、将来の人生や仕事を考えるときに、勝手に自分で「限界」の線を引くようになってしまっていたんですね。

藤本 それでも、1回目の就職活動に失敗した後には、意を決して我究館に参加しようと思い立った。そして、静岡から東京まで鈍行で通い始めた。村田さんの中にはその時点で、大きな変化が起きていたんだと思います。

村田 そうかもしれませんね。ただ、自分のなかに本当に「変化」が起きたのは、我究館に参加してからだと思います。

当時の我究館はノリが体育会系で、ドアを開ける前に一度、深呼吸をしないと入っていけないような緊張感があって(笑)。そんな雰囲気のなかで、仲間たちと徹夜で面接の猛特訓をすることもありました。自分の面接の様子をビデオで撮影して、それを見ながらみんなでフィードバックし合っていました。

自己分析だと「『要・再我究』(=自己分析のやり直し)」とは何度も言われましたね。「全然具体的じゃない」や「おまえのコアはどこにあるんだ」といった質問がいろんな人から飛んでくるんです。ワークシートを回し読みしながら「ムラシン、これってこういうことじゃないの?」とか「こういうこと考えてるなら、こっちの業界のほうがいいんじゃないの?」と話し合う。繰り返していると、自分の想像よりも、将来の幅が広がっていく実感がありました。自分を見つめ直すうちに、いつしか自分のなかで勝手に設けていた「限界」の線が消えていくのを感じたんです。

「重要なのは、自分の人生でいちばんやりたいことは何なのかを本気で考えることだ。そこに自分で天井を設ける必要なんてない。まだ20代前半。挫折だらけだったとしても、これから頑張ればいいんだ」と、開き直れたんです。

『絶対内定』も「人生のなかで自分が本当にやりたいことは何なのか」を、繰り返し繰り返し、いろいろな角度から聞いてくる本。読み込むうちにやっぱり、自分が勝手に設けていた「線」を超える勇気をもらっていく感覚がありました。

藤本 村田さんが『絶対内定』を読み、我究館に参加していたころと時代は変わりました。でも、学生たちと接しているとやはり、ひとりひとりがどこかのタイミングで「化ける」のを感じるんです。その瞬間に立ち会えるのが、私にとってはひとつの大きなやりがいです。みんな、どこかでブレイクスルーして、「人が変わる」んですよね。

村田 私が自分の変化を確かに感じたのは、「30歳の私、40歳の私」(『絶対内定2023』416ページ)という、未来の自分を思い描くワークをしていたときですね。

単に「どんな職業に就いていたいか」だけではなく「どんな人間になっていたいか」という人間性の部分も思い描き、紙に書きます。そのうちに、ボヤーッと思っていただけのことがだんだん整理されて、明確になり、さらに深まっていくんですね。

すると「自分の本音はこうなんだ」というものが見えて、ワクワクしてくるんですよ。自分の未来に期待や希望が持てて、同時に自信が湧いてくるのも感じました

紛争地帯でもぶれない、仕事と人生の「軸」の見つけかた――国境なき医師団 村田慎二郎×『絶対内定』藤本健司対談(1)村田さんが実際に書き込んだ膨大な量のワークシート

藤本 そこはまさに、多くの学生が「化ける」ポイントです。

村田 いつまでも「いやー、大学受験のときはああだったからなぁ」とか「俺、偏差値があんなもんだったからなぁ」と過去を引きずっていた自分から、未来の自分を信じる自分に変わる。そうなれたのは、自分で考え、ワークシートに書き込み、いろんな人と話し合ったからでした。これは大きな経験でした。

藤本 わかります。今、就活をしている我究館生と接していても、やっぱり自分に自信が持てない学生っているんですよ。それは村田さんのように、抱えているコンプレックスに原因がある場合もあれば、幼いころからの家庭環境の問題を引きずっている場合もあります。

自信のない学生がコンプレックスや自分の弱みにフォーカスしてしまうと、気分はさらに沈んでしまう。でもその弱さや至らなさと向き合い、受け入れたうえで「これからどうしたいのか」「それはなぜか」というところに目を向けると、自信が芽生え始めることが多いんです。

村田 人生、本当に大事なのはそっちなんですよね。「過去がどうだったか」より、「今の自分がどうなっていきたいのか」のほうが。特に若い人は「未来の自分が輝いているのか」も重要。それさえあれば、別に過去どうだったかは、全く関係ない。それがある人なら、これから成長できるから。

藤本 おっしゃるとおりですね。

(第2回へつづく)