「助け合い」は人間だけなのか
進化心理学の入門としておすすめの本が、長谷川寿一・長谷川眞理子『進化と人間行動』だ。さまざまな動物や民族の具体的なエピソードが多く紹介されていて、面白く読める。大学の1・2年生向けの教科書として書かれた本なので、初心者にも入りやすい。
たとえば、利他行動、つまり「人間がなぜ他者を助けるのか」ということには、進化的な理由がある。
要は、「困っている奴を助けたら、自分が困っているときに助けてもらえる」からだ。
助け合ったほうが、それぞれが孤独に生きていくよりもお互いにメリットがあって、生き残りやすい。助け合いをしない遺伝子を持っている個体は生き残りにくかったので、滅びてしまった。
だから、今残っている人類はみんな多かれ少なかれ、助け合いを好むようになっている。
「助け合い」というのは、人間だけが持っている尊い感情ではない。
たとえば、南米に棲息する吸血コウモリである「チスイコウモリ」は、2晩、血を吸えないと餓死してしまう。
そこで、コウモリ同士の利他行動が見られる。運悪く血を吸えなかったコウモリがいると、血をたくさん吸えたコウモリは、吸った血を吐き戻して相手に与えるのだ。
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ウィルキンソンは、コスタリカの洞窟でこのチスイコウモリの集団を観察しましたが、満足に血を吸えなかった飢えた個体が、満腹の個体に餌ねだりの行動をする場面を目撃し、ねだられた個体が飢えている個体に血を吐き戻してやることを発見しました(Wilkinson、1984)。
『進化と人間行動』より引用
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しかも、コウモリは誰が誰に血を分けたかを覚えているという。
血をもらったコウモリは、次に自分が血を吸えたときには、積極的に他のコウモリに血をあげようとする。そして、誰にも血を与えない自己中心的なコウモリは、他のコウモリからも血をもらえないのだ。
そんなふうに、他者を助ける個体のほうが生存に有利だったので、他者を助ける遺伝子が広まっていって、チスイコウモリはお互いを助け合うようになった。
人間の社会はもっと複雑だけど、助け合ったほうが生存に有利だったから助け合うようになったという点では、チスイコウモリと人間は何も変わらない。
人間の道徳性や助け合いの精神というのは、こうやって進化の過程で遺伝子に刻み込まれただけのものに過ぎないのだ。