【数字から保険を読む】#13 就業不能保険の原型は【1994年】に誕生

生保がこぞって発売する就業不能保険
類似商品は損保が20年以上前から販売

 1994年――。

 就業不能保険。最近よく耳にする保険の名称である。最近は大手も含めて多くの生命保険会社が競うように新商品を発売し、テレビコマーシャルでも頻繁に耳にするようになった。 “病気やケガで働けなくなったときの保険”―そのように説明されることが多いが、一体どのような保険であろうか。また、なぜ最近になって生命保険各社がこの保険を相次いで発売するようになったのか、理由を探ってみたい。

就業不能保険の歴史

 就業不能保険は、もともと米国において、企業の福利厚生制度を補完する保険として広く普及していた。この就業不能保険で有名な米国の生命保険会社が日本に進出するに際して、日本における類似の保険が所得補償保険であり、20年ほど前から損害保険会社が取り扱っていたため、日本においては損保会社として事業認可を取得して販売を開始した。それが冒頭のタイトルにある1994年である。

 当初は、法人専用の就業不能保険である団体長期障害所得補償保険(以下「GLTD」)として販売された。大企業に対しては従業員の任意加入型、中小企業に対しては企業が保険料の全額を負担する従業員の全員加入型が、積極的に販売された。

 ちなみに、GLTDの発売当時はまだパソコンが普及していなかったため、損害保険の保険料は手計算で算出することがほとんどであった。しかし、GLTDは手計算で保険料を算出することが困難な珍しい損害保険であり、さらに発売当初の商品内容が複雑であったため、当時の損害保険会社の社員にはかなり取っ付きにくい保険であった。

 なお、多くの大企業においては任意加入の保険として、既に所得補償保険が販売されていたが、それに上乗せする形でGLTDが販売された。つまり、従業員がケガや病気で働けなくなった場合の短期間を補償する基本プランとして所得補償保険、基本プランに上乗せして長期間を補償するオプションプランとしてGLTDが販売された。従って、大企業に勤める多くの従業員は、保険の名称を知らずにGLTDに加入していたケースが多かったというわけだ。

 また、就業不能保険の個人契約者向けとして個人長期障害所得補償保険(ILTD)、銀行のローン利用者向けとして債務返済支援特約付き団体長期障害所得補償(CLTD)などの派生商品も販売された。銀行で住宅ローンを利用する人は、一般的に団体信用生命保険に加入するケースが多いが、オプションとして病気やケガで働けなくなったときをCLTDで補償し、さらなるオプションとして会社都合で解雇されたときを補償する商品も販売された。

 一方、生保業界においては、いくつかの生保会社が個人契約者向けの就業不能保険の販売を試みるも、販売が軌道に乗らない状況が続いていた。そのような中、2010年代に入り、死亡保険である収入保障保険の特約の形で就業不能保障を販売する生保会社が現れた。銀行において団体信用生命保険を基本補償として、CLTDを上乗せ補償として販売するのと同じパターンである。

 その後、次第に就業不能保障は生保市場において人気を博し、知名度が向上してきた。そして大手を含む多くの生保会社が、単品の就業不能保険を発売するに至っている。今では多くの生保会社が就業不能保険を販売しているが、用語が難しいため、販売する生保会社によって名称は異なる。

 では、これら就業不能保険と名称が似た保険はいったい何が違うのか。以降、検証していこう。