2021年10月30日、G20(金融世界経済に関する首脳会合)は大企業への各国共通の法人税15%以上の最低税率に最終合意した。しかし、先頃発覚した「パンドラ文書」では、G20参加国トップを含む世界のスーパーリッチによる租税回避が暴露されている。もやもやとした矛盾を感じるのは筆者だけだろうか?(税理士、岡野雄志税理士事務所所長 岡野雄志)
コロナ禍に各国のトップまでもが租税回避
庶民の怒りを買う「パンドラ文書」とは?
何も共通法人税率に疑問を呈しているわけではない。経済もデジタル化し、GAFA(Google、Apple、Facebook※、Amazon)のように越境的事業を行う巨大企業には、国や地域を越えた世界共通の課税ルールがないと対応しきれない。税制とは常に時代に呼応し変化するものだ。
※2021年10月28日、Metaに社名変更
これまで法人税率は各国・地域の税制に従っていたため、大企業の誘致を目的に法人税率の引き下げや優遇措置の導入など国家間競争が激化した。一方、コロナショックで各国とも国庫財源が危うくなっている。この矛盾には、共通法人税率が一定の成果を上げるかもしれない。
しかし、それでも税制の網の目をくぐる輩はいる。そういう人々を白日の下にさらしたのが、「パンドラ文書」だ。国家元首、政府首脳、億万長者、芸能・スポーツ界などの著名人、経営者、ビジネスリーダーなどのオフショア取引について暴露した機密文書である。
「パンドラ文書」は、G20ローマ・サミットに先立つ10月4日未明(日本時間)、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)によってリークされた。「パンドラ文書」には、G20参加国元首も名を連ねる。国際企業の租税回避を論じ合う国の為政者が、租税回避の当事者だったわけだ。
「オフショア」とは本来「沖合」を意味し、自国から離れた税率の極めて低い地域を指す。オフショア取引の中心地は、税率20%以下の「タックスヘイブン」、直訳すると「税の避難所」で、「租税回避地」「低課税地域」とも呼ぶ。ここに法人設立や口座開設することで租税回避する。
代表的なタックスヘイブンとして、スイス、ルクセンブルク、モナコ、シンガポール、香港、バハマ、ケイマン諸島、バージン諸島、ジャージー島などが知られる。「沖合」の南の島だけではない。米国デラウェア州にはペーパーカンパニーが乱立し、信託財産の匿名性が高いサウスダコタ州は超富裕層の遺産税対策に人気だ。
EU(European Union/欧州連合)は、2017年から租税に非協力的な国・地域をブラックリストやグレーリストとして発表している。また、OECD(経済協力開発機構)は、判定基準を策定し、ひとつでも該当すれば、当該の非加盟国・地域をタックスヘイブンとみなし、有害税制リストに掲載される。
そもそも、租税回避は税法で規定されていない。税法で規制されていない行為なら合法的といえる。では、なぜ問題なのだろうか。それは、オフショア取引による法人や口座がマネーロンダリング(資金洗浄)に利用され、犯罪・テロ資金などに悪用されるケースがあるからだ。
また、コロナショックによる経済低迷で、先進国と発展途上国の格差や個人間の所得格差が国際的に問題視されている。各国の国庫もひっ迫する中、国の政(まつりごと)をつかさどるリーダーたちが租税回避で私腹を肥やしているというのは、やはりどう考えても問題だろう。