厚生労働省は2021年11月26日付の健康局長通知で、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの「積極勧奨差し控え」を廃止。およそ8年半続いた「定期接種だが積極的に勧奨はしない」という責任逃れの異常事態にようやく終止符が打たれた。
この間、HPVワクチンの存在自体を知らず、無料の公費助成期間を逃した女性には、救済措置として「キャッチアップ接種」が実施される見込み。
HPVは、普通に性交渉の経験があれば、一生のうちに男女とも8割以上が感染するありふれたウイルスだ。子宮頸がん「のみ」の原因ウイルスと誤解されているが、中咽頭がんや肛門がん、男性の陰茎がんを引き起こす。
このうち、“のどちんこ”や扁桃、舌の付け根など、口を大きく開けたときの突き当たり周辺に発症する中咽頭がんは、男女比がおよそ3対1と、圧倒的に男性に多い。大量飲酒など生活習慣が原因とされてきたが、近年、若い世代を中心にHPVの持続感染を原因とする症例が増えている。
国内の多施設共同研究によると、中咽頭がんのおよそ半数はHPV陽性がんで、子宮頸がんのハイリスクウイルスと同じHPV16感染が9割を占めた。
現在国内で接種できる3種類のHPVワクチン(2価、4価、9価)は、全てHPV16に対応している。このうち公費助成で接種可能なワクチンは2価と4価で、4価は20年12月に9歳以上の男性に対する適応を取得した。この機会に、男性への公的助成を検討してもらいたい。
気になるのは安全性だろう。当然だが、HPVワクチンも接種後に腕の痛みや迷走神経反射(緊張のあまり失神するなど)が生じることがある。新型コロナワクチンと同じく、接種後30分ほどの安静で対応が可能だ。積極勧奨中止のきっかけになったけいれんや痛み、運動機能の障害などの多様な症状については、ワクチン接種との因果関係は認められていない。
自治体によっては早々に、接種券の配布を始めている。接種を受ける本人の意思を尊重しつつ、親子でじっくり話し合おう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)