「1作品ごとの売り上げや閲覧率、途中で読むのをやめた離脱率といったデータ分析はどこでもやっている。ただピッコマは、金在龍社長が『その作品の販売担当者はまず漫画を実際に読み込む』と言っていたのが非常に印象的です。数字だけでなく、“読者としての感覚”も踏まえて『1作品』『1話』ごと、そしてどんな読者かによって、いつ、どんなサムネイルを出すと伸びるのかを丁寧に考えている。また、話を読み終えると他の作品が紹介されるレコメンド機能は、本来ならAIだけで完結させられるものの、人間の感覚で『面白い』と感じる作品を選ぶために、あえて人力も混ぜています。販売ノウハウが、並の電子書店や漫画アプリ事業者とは違うんです」

 カカオピッコマの金在龍社長が、マンガを手がける前にスポーツ用品やゲームの「マーケター」だったという出自は、「編集者」の力が強い日本の出版社のスタンスとは異なる。

「出版社は、編集者が作家の意向を第一に尊重する傾向があり、作家がイヤがりそうな売り出し方には先回りして躊躇(ちゅうちょ)しがちです。もちろん作家あっての作品なのでそれ自体はいい。ただ、あまり遠慮していると新しい販売施策に踏み切れなかったり、一度成功した施策に固執しがちになる。韓国はオンラインゲーム大国で『基本無料、部分有料』『アイテム課金』といったビジネスモデルを発明してきましたが、ピッコマが始めた『待てば無料』という斬新な手法はゲームビジネスの発想から来ているし、その後も新しい売り方に積極的です」

 飯田氏は、「ピッコマはプロモーション施策が時期や場所ごとに臨機応変な印象がある」とも続ける。

「ピッコマは一貫して『これまで漫画に親しんでこなかったライトユーザーの獲得』を掲げており、一時SNSでエロ・グロ要素のあるやや過激な広告を出していました。しかし、今はTikTokやYouTubeで動画視聴者に極力反発されないような広告づくりに注力している。ユーザーの獲得手法も、広告で押される作品も変わり続けています」

 韓国発の漫画が売れている背景には、作品の魅力を最大限にアピールするマーケティングの力が存在したのだ。