大学等進学率に取り残される
「最低限度の生活」の内実

 現在のところ、生活保護制度における大学昼間部在学の扱いは、高級マンションや高級外車と同じ「ゼイタク品」だ。生活保護を利用するのなら、大学昼間部には在学しない原則となっている。

 本来、生活保護は、本人が利用できるものを利用し尽くしても「健康で文化的な生活」を営めない場合に、不足分を補足する制度である。多額の現金に換金できる不動産や自動車の売却が求められるのと同様に、大学昼間部で学ぶことのできる健康な心身があるのなら「その心身を生かして働いてください」ということになる。

 生活保護制度が施工された1950年は、高校進学が「ゼイタク品」扱いだった。日本の義務教育は小学校と中学校のみであり、当時の高校進学率が42.5%にとどまっていたことを考慮すると、妥当であったかもしれない。しかし1970年、高校進学率が80%を超えて82.1%となったため、厚生省(当時)は生活保護での高校進学を認めた。1970年当時、すでに「高校まででは物足りないのでは」という議論があったにもかかわらず、51年後の2021年現在、生活保護のもとで大学等に在学することは認められていない。

 日本の大学等への進学率(浪人を含む)は、2016年に80.0%に達した。2020年には83.5%に達しており、もはや「ゼイタク品」ではない。しかし、同年の生活保護世帯の大学等進学率は37.3%にとどまっている。

 厚生労働省社会・援護局保護課の担当者は、「大学に進学することを応援することは、政府の立場として当然です」と述べつつも、「生活保護での大学進学は、一般低所得世帯との均衡を考えると、『健康で文化的な最低限度の生活』に含まれているとはいえません」と語る。

 2018年から、生活保護で暮らす家族と同居したまま大学等に進学する場合、本人は生活保護の対象から除外するものの、世帯人員の減少に対応させて家賃補助を減額することはしない取り扱いが開始されている。この取り扱いは「大学等の学生に対する家賃補助の部分的適用」とみることもできる。しかし、進学にあたって家族と別居する場合、その若干の支援も適用されない。

 虐待を受けていた学生は、虐待していた家族と同居するわけにはいかない。家族からの経済的支援がある場合、虐待の継続という代償を支払うことになるだろう。従って、1人で困窮しながら学生生活を送ることになる。しかし厚労省保護課の担当者は、「現在のところ、そういう方の支援は考えていません」という。生活保護に含まれる生活費・家賃補助・医療費などのうち葬祭費用を除く7つのメニューを必要に応じて単体で提供すること(単給)についても、現在のところは考えていないということだ。

 むろん、厚労省と生活保護制度だけが、すべてを背負う必要はない。大学等の学籍があるのなら、在学している大学等と文科省による支援も考えられる。学費免除や給付型奨学金などの支援は、不足しているとはいえ、年々、少しずつ充実してきている。しかし、隙間や谷間が大きすぎるため、取り残される人々が多すぎるのだ。