2021年は鉄鋼業界にとって、「顧客優位、鉄鋼劣位」の関係を覆すための“反撃開始”の年となった。中でも最大の取り組みが鋼材価格の値上げであり、22年も引き続きタフな価格交渉は続く。まさに、顧客と対等な取引関係を奪還するための正念場となるが、鉄鋼3社は一様に値上げを実現できるわけではなさそうだ。特集『総予測2022』の本稿では、鉄鋼3社の業績格差の予兆を探る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
トヨタに対する提訴に、強烈な値上げ
ついに“反撃”を始めた鉄鋼業界
日本製鉄によるトヨタ自動車と、鉄鋼世界最大手・中国宝武鋼鉄集団の中核会社である宝山鋼鉄(宝鋼)への提訴――。2021年に鉄鋼業界で起こった大事件だ。
日本製鉄は、同社の“虎の子”製品「無方向性電磁鋼板」に関する特許権が侵害されていると主張している。電磁鋼板は、良好な磁気特性を発揮することでエネルギーロスを抑制できる。電動車にも欠かせない、重要製品だ。
最大級の顧客であるトヨタに法廷闘争を仕掛けた日本製鉄の先行きを、懸念する関係者は多い。だが、背景には根深い経緯がある。電磁鋼板の値上げを巡り、日本製鉄とトヨタはもともと緊張関係にあった。そこに、宝鋼の特許侵害製品を採用するというトヨタの「不義理」が加わり、日本製鉄がぶち切れたわけだ。
日本の鋼材はただでさえ「世界一高品質で、世界一安値」とやゆされるが、この1年で鉄鋼業界を取り巻く環境も一変した。脱炭素社会に向けたゼロカーボン・スチールの開発で壮絶な国際戦争が始まろうとしており、余裕がない。
日本製鉄の提訴は、自動車メーカーをはじめとした重要顧客に「これ以上、いいように使われない」(日本製鉄幹部)という決意の表れともいえた。
実はちょうど日本製鉄は、度を超えて進んだ「顧客優位、鉄鋼劣位」の関係に終止符を打とうとしていたところだった。それは鉄鋼3社に共通する思いでもある。
その大きな方向性の中、鉄鋼各社が21年に行った最大の取り組みが鋼材価格の値上げだ。20年間で低下する一方だった価格交渉力を巻き返そうと一挙に動いた。
この流れは22年も続く。鉄鋼業界にとってはまさに、顧客と対等な取引関係を奪還するための正念場なのだ。各社が21年に続き、さらなる値上げに突き進むのは間違いない。
ただし22年、鉄鋼3社は一様に値上げを実現できるわけではなさそうだ。以降では、鉄鋼3社で浮き彫りになる“競争力格差”の実態について明かしていこう。