木原官房副長官が動き、落としどころを模索

 こうしたせめぎ合いと混乱を横で見ていた木原誠二官房副長官が動かなかったら、財務省の思い通りに進んでいたかもしれない。しかし、来る参議院選挙を案じた木原副長官は、元財務官僚ではあるが、医療分野にも精通している。彼が落としどころを模索することを決意したのだ。

 岸田首相に進言する一方で、中川会長と麻生副総裁との会食の席をつくり、大家敏志財務副大臣とも調整を図った。財務省関係者はこう嘆く。

「最大の戦略は、『中川会長に口を開かせるな』だったと聞いています」

 この戦略は当たった。木原副長官は、横倉前会長派の麻生副総裁に加え、安倍前総理にも調整をするなど八面六臂(ろっぴ)の活躍をしながら、岸田首相に財務官僚さながらの粘り強い説明を行ったという。

 そして、最終的に、岸田首相が出した答えが「本体部分+0.43%」だったのだ。

財務省にとっても、厚労省・日医にとっても「想定外の決着」

 木原副長官を中心に着々と外堀を埋められていたことは、財務省のみならず、厚労省や中川会長すら理解しておらず、こうして皆にとって「想定外の決着」がついたのである。

 12月22日に、中川会長が「令和4年度診療報酬改定率の決定を受けて」という記者会見で、「厳しい財政状況でのプラス改定を評価したい」と語ったのももっともである。

 だがその会見でも、中川会長は、謝辞を述べた政治家から「安倍晋三前首相」の名前を抜かすという大失態を犯し、後から、文章で安倍前首相の名前を入れるという、政治センスのなさを露呈していた(記者会見の様子はYoutubeで閲覧できるので、ぜひご覧いただきたい)。

 こうした結果を受けて、ある日医関係者は、次のように訥々(とつとつ)と話した。

「中川会長にもう一期やらせて、東京都の今村聡副会長や埼玉県の松本吉郎常任理事につなぎたいという思惑を持っている人がいるようですが、柵木充明愛知県医師会長の評判がいい。バランス感覚もあるし、政治力もなかなかです。僕個人としては、彼に日医の未来を託したいです」
 
 日医の会長選挙は、診療報酬改定と交互に行われる。既に焦点は、今年の会長選挙で、中川氏が再選できるかどうかに移っている。日医に転職した元官僚の一人は、かつて筆者にこう語った。

「日医は北朝鮮のようなところ。会長が交代すれば、人事も一新する」

 ウィズコロナの時代、医療は「公」のものとなっている。選挙戦も時代に合わせ、前回のように実弾が飛び交うような事態は避け、国民に開かれたものとなるべきだろう。