『アマゾンの最強の働き方──Working Backwards』が刊行された。アマゾン本社の経営中枢でCEOジェフ・ベゾスを支えてきた人物が、アマゾンの「経営・仕組み・働き方」について詳細に公開した初めての本として大きな話題になっている。
アマゾンで「ジェフの影」と呼ばれるCEO付きの参謀を務めたコリン・ブライアーと、バイスプレジデント、ディレクター等を長年担ったビル・カーが、「アマゾンの働き方を個人や企業が導入する方法」を解き明かした、画期的な一冊だ。
本稿では『アマゾンの最強の働き方』より、ベゾスが資料読みの秘訣について語ったエピソードを紹介する。

アマゾン創業者がやっている「資料」を深く読む方法Photo: Adobe Stock

提案への「意見」は極めて重要

 会議参加者にとって、有意義なフィードバックやインサイトを伝えることは、提案文書を準備するのと同じくらい難しい。

 私(コリン)がアマゾン在籍中にもらった最高の宝物は2本のペンである。

 私が述べた意見に対し、提案チームから贈られたプレゼントだ(会議終了後、私はたいてい提案者にメモを書き込んだ説明文を手渡していた)。いずれのケースも、私のコメントが事業を成功に導く鍵になったと言ってくれた。

 こんなことを書くのは自分の貢献を自慢したいからではない。読み手が書き手と同じくらい真剣に向き合って意見を述べれば、現実的で長期的な影響を与えることができるという実例を示したいからだ。それは単なる感想ではない。アイデアを具現化する手助けをする、つまり事業を推進するチームの重要な一員になるということだ。

 すぐれた「6ページ資料」がどのようなものであるか、アマゾニアンはすでによく知っている(6ページ資料とは、アマゾンの会議などで使われている独自の資料の形式。詳細は本書を参照)。

 どんな内容が、どんな水準で求められているのか理解しているので、基準に達しない資料が会議に提出されることはめったにない。

 だが一度だけ、不十分な6ページ資料を受け取ったことがある。中身のない決まり文句を並べ、検討すべき難しい課題を避けていた。私はその文書をやんわりと差し戻し、まだ議論の準備ができていないようですね、と言い添えた。そして会議を延期し、文書を改良するよう促した。忌憚のない意見を言うことは、発表するチームを助けることにつながる。

どうやって読んでいるのか、訊いてみた

 会議では全員が同じ文書を読むが、ジェフ(ベゾス)にはナラティブ(叙述)形式による資料を読み取る不思議な能力があるのか、だれも思いつかないようなことをいつも指摘した。

 ある会議のあと、なぜそんなことができるのか訊いてみた。

 彼の答えはシンプルで、いまも記憶に残る有益なアドバイスとなった──正しいと証明できるまで、すべての文が間違っていると疑いながら読み進めること

 もちろん彼は、提案の中身に疑問を投げかけているのであって、書き手の動機を疑っているのではない。そんな読み方をするからなのか、文書を読み終わるのがいちばん遅いのはたいていジェフだった。

 このような批判的な視点によって、的確に状況を把握できているか、根本的な事実を見逃していないか、またアマゾンの行動規範に則っているか、といった検証が可能になる。

 たとえば、こんな説明文があるとしよう。

「商品の返品期限について、競合他社の多くは購入後30日以内としているが、当社では顧客の利益を最大限に考慮して60日以内とした」

 次の会議がある多忙な幹部社員なら、この一文をさっと読み流し、納得して先に進んでしまうかもしれない。

 しかし批判的な読み手なら、文中に存在する暗黙の了解に疑問を投げかけるだろう。すなわち、返品可能な日数を長く設定するのは、本当に顧客にとって良いことなのか、といった疑問だ。確かに他社と比べれば顧客にとって有利かもしれない。しかし顧客にとって本当に良いことなのか?

 批判的な読み手なら、さらにこんな質問をするだろう。

「アマゾンが本当にお客様にこだわるというならば、返品が担当部門に到着し、破損がないことを確認するまで返金をしないのはなぜなのか? 返品を希望する顧客の99%は誠実に損傷のない商品を返送してくれるというのに」

 このように、提案文書に何か不備がないかと疑ってみることで、アマゾンは顧客にとって煩わしさのない返品ルールを考案することができた。このルールによれば、顧客は返品希望の商品がアマゾンに到着する前に代金の返還を受けることができる(商品を返送しないごく少数の顧客には、返還した代金を改めて支払ってもらう)。

 ちなみに、こういったことを実行するのに「ジェフの存在」は関係ない。あなたの組織でも、批判的思考を徹底すれば、多様なアイデアをうまく生み出せるようになるはずだ。

(本原稿は『アマゾンの最強の働き方』からの抜粋です)