写真 加藤昌人 |
四角い箱の中に床を積み上げ、ガラスで外界との境界を作る。20世紀の建築は「効率的な空調環境を最優先としてきた」。
「箱の代わりに、生命体を置いた」。21世紀を拓く建築家は、野心的にパラダイムシフトを仕掛けようとしている。
生命体は、成長のための合理的な形状を形成する。たとえば木が、光合成に都合のいいように枝をはわせ、葉を茂らせるように。それはあくまで自己中心的に出来上がった姿であるのに、人はなぜ木に快適さを覚えるのか。
「知識や文化を羽織る前の人間の、生物としての記憶がそうさせるのではないか。生命体としての合理性が、人工物としての合理性に結び付いたとき、建築になる」。
珊瑚樹をイメージしたオフィスビルの内部は、格子状の壁を立て、斜めに切り取った。歩調を変えると視野も変わり、まるで万華鏡の中を進んでいるような感覚に襲われる。まったく斬新でありながら、幼い頃の夢で見たような既視感を覚える。
ある夫婦二人の個人住宅は、キャベツの葉と葉のあいだの空間に倣った。それぞれの居室は独立しているようで、上下左右のどこかがつながっていて、必ず隣の一部が見える。遠くて近い距離感を演出している。
「人間関係は空間によって変化する。現代の建築家の仕事は、色にたとえれば、白と黒を決めつけるのではなく、限りなく広がるグレーをコントロールするようなもの」
(『週刊ダイヤモンド』編集部 遠藤典子)
平田晃久(Akihisa Hirata)●建築家 1971年生まれ。94年京都大学工学部建築学科卒業、97年同大学院工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所を経て、2005年平田晃久建築設計事務所設立。08年日本建築家協会新人賞など受賞多数。