「やり抜く力」は
後天的に習得できる能力

 やり抜く力に関する研究を進めたのが、ペンシルベニア大学の心理学者アンジェラ・ダックワース博士だ。博士は「やり抜く力とは後天的な能力であり、強い目的意識に伴って習得される」とし、その力を次のように表現している。

「やり抜く力(グリッド)、すなわち長期的な目標を掲げ、その実現に向けて関心を失うことなく努力し続ける性向」(『PEAK PERFORMANCE 最強の成長術』より)

 私たちはよく「飽きっぽい性格だから」「熱しやすく冷めやすいから」と、挫折の原因を性格や気質に結びつけることがある。もちろん、生まれ持った性質の影響も否定できないだろう。しかし挫折を招いた原因は、やり抜く力の未熟さかもしれない。

 やり抜く力を持続させるには、長期的な目標設定が肝心だ。たとえばランニングを始めたばかりの初心者は、「まずは3km」「毎日走る」などの目標を設定することがあるだろう。しかし、これは短期的で漠然としすぎている。

 ランニング初心者であれば、「ハーフマラソン完走」や「フルマラソン完走」、「憧れのレースへの参加」などを長期的目標として設定してみてはいかがだろう。長期的目標が明確になるとトレーニングの方向性も定まり、実現のための一歩を踏み出しやすくなる。

 一方で、ランニングは挫折する人の多いスポーツでもある。ランナーが直面する挫折の原因で多いのが、怪我によるものだ。スポーツにはどうしても怪我のリスクが伴う。怪我をすると休息が必要になり、スポーツから遠ざかるのは仕方がない。

 怪我をしたときに挫折を防ぐには、どんな対処法を取るべきだろうか。ダックワース博士の言葉を借りるならば、やり抜く力には関心の維持が必要だ。たとえば自分が設定した長期的目標を思い出してほしい。目標のレースがあるならば、走ることはできなくても観戦してみることだ。すると、会場の景色や臨場感から刺激を受けるだろう。長期的目標に対して関心を維持することが、「また走ってみよう」という気持ちにつながるはずだ。