AIを倫理の側面から見つめた優れた論文として注目されるも、ゲブル氏は上司から「共著者から名前を削除せよ」との要求を拒否し、解雇された。その結果、何千人ものGoogle社員や研究者などが署名で抗議を表明した。

 近年勢いを増すGAFAの一角を成す巨大企業の社内で起きたクーデーター。この事案の特異性について、企業向けに哲学コンサルティングを提供する日本初の企業、クロス・フィロソフィーズの吉田幸司氏は次のように考察する。

「米Googleのゲブル氏解雇は悪手だったといえるでしょう。AI分野は新規性が高く、アルゴリズムの倫理性や社会受容性への配慮の議論が必要とされています。にもかかわらず、米Googleは社員による倫理的観点の指摘を社内の意思決定に反映しなかったことで、結果的に大きな不利益を被りました」(吉田氏、以下「 」同)

 対照的なのが米Twitterだ。

「Twitterは倫理的AIを作るため、META(Machine Learning, Ethics, Transparency and Accountability)チームを組成。2021年には、『責任ある機械学習(Responsible ML)』を同社の主要な優先事項に設定し、これまでテック企業に対して批判的な姿勢を取っていたAI倫理研究者をコンサルタントとして起用しました」

商品・サービス開発のみならず
人材育成にも哲学を活用

 人間とテクノロジーとの間に必ず生じる「倫理と社会受容」の問題。企業経営者はこの問題に目を配りながら、営利活動をかじ取りしなければならない。

 特に第4次産業革命が進む中、GAFAを筆頭にIoTやAIなどデータによる技術革新を揚力にして飛躍した企業は多い。データはプライバシーの問題などをはらむことから、一層倫理的な観点が要求される。