こうした背景から、米国では「インハウス・フィロソファー(企業内専属哲学者)」の雇用が進んできた。

 米Googleは、認知や言語に関する哲学者のデイモン・ホロヴィッツを雇用(現在は退職)し、パーソナライズやプライバシーなど倫理的な議論が必要な機能の開発に携わらせた。またAppleでは、著名な政治哲学者ジョシュア・コーエンがフルタイムで雇用されたことも話題になった。

「哲学」は製品やサービスの倫理的な検証のみならず、人材育成においても活用されている。

 哲学コンサルティング企業「アスコル」は、Facebook(現META)やTwitterをクライアントとして、幹部向けに哲学的なコーチングをするプログラムを提供してきたことを公表している。

「例えば『どうすれば成功できるか』と考える幹部に対して、対人向けの哲学コンサルティングでは『なぜ、成功しないといけないのか』『そもそも、成功とは何か』などと問いかけ、先入観を取りのぞいたり、新しい気づきを得たりするのを助けることが期待されています」

 吉田氏が率いるクロス・フィロソフィーズも、日本企業の経営者や幹部向けに、同様の哲学コンサルティングを提供している。

「経営者や幹部にとりわけ多いのは、『株主、顧客、従業員が求めていることに応えたい』という意識です。『この問題についてどうするべきだと考えますか』と聞くと、『それはお客様にこう指摘されて』『市場調査するとこんなニーズがあって』という答えがよく返ってきます。ところが、『あなた自身はどうするべきだと考えているのでしょうか』と問いかけると言葉にできない人が非常に多い。哲学の知識を背景にさまざまな観点から問いを振り、共に考えていく哲学コンサルティングは、本人も自覚していなかった価値観や世界観を引き出すことができます。その結果、その人独自の強い基軸が構築されるのです」

哲学シンキング哲学をベースにしたコンサルティングや組織開発などを展開するクロス・フィロソフィーズの社長である吉田氏の著書『哲学シンキング』。哲学を使った思考メソッドについて解説している