第5回で、人は日常の生活でも、瞬間的には統計学の知識を使って判断しないことが多いという話を書いた。
そのことを示すために、「Aさんに子どもが2人いる。うち1人は女の子であることがわかっている。もう1人が男の子である可能性は?」という質問を例にあげたが、この質問を使って、一橋大学で行なっている講義の受講生たちに簡単なアンケート調査をしてみた。
【問題】
よく考えて答えてください。正しければ○、間違っていれば×で答えてください。「ある人に子供が2人いることがわかっている。そのうち、少なくとも1人は男の子だということがわかった。もう1人が女の子である可能性は1/2?」
その結果、○と答えたのは144名、×と答えたのは100名だった。間違えて○と答えた6割という人数の比率が高いのか低いのかはよくわからないし、×と答えた100名にも正解をちゃんと理解していない者が混じっているだろう(精密な調査を行なえば、その数はかなり多いのではないかとも思う)。
このような誤解は、私たちが思っている以上に多い。いくつかの問題をあげてみよう。
【問題1】
毎日、A病院では50人、B病院では10人の赤ちゃんが生まれています。1年間で、1日に出生した赤ちゃんの6割以上が男の子だった日はどちらが多かったと思いますか?
1.A病院
2.B病院
3.A病院もB病院もほぼ同じ
正解は、B病院。答えは、「ほぼ同じ」ではない。サンプルの数が少ないほど極端な値が出やすくなるから、「小病院のほうが多い」というのが正解。
「A病院では1万人、B病院では1人の赤ちゃんが生まれています」という前提であれば、気づく人も多いだろう。毎日1万人が生まれる病院では、赤ちゃんの6割以上が男の子だった日は、1年に1回もないかもしれない。一方、1人の赤ちゃんしか生まれない病院では、赤ちゃんの6割以上が男の子だった日は、1年のうち、ほとんど半数に及ぶだろう。
サンプル数が少ないとバラツキが大きくなるのは当然だが、日常的には、私たちは、そんなことはお構いなしに判断している。
カーネマンらは、人間によるこのような判断の単純化を総称して「簡便法(ヒューリスティックス)」と名づけた。人は、合理的に考えるのではなく、丸めて考えるということだ。
学生に対するアンケートでは、「A病院もB病院もほぼ同じ」と間違えて答えた学生が45%いて、正解者数とほぼ拮抗している。