「サウナ」の恍惚
pha:そっか。でも、本当にヤバいときはそういうのに目を向ける余裕がないかもしれない。そういうささやかなものを見ても、「よくわかんねえな」と思っちゃうかも。
佐々木:本当に鬱っぽいときは、景色を見ても灰色に見えますからね。あとは、僕は乗り物が好きだから、車やバイクに乗りますかね。サウナもいいと思いますけどね。サウナもまさにホモサピエンスのバグというか、人間の感情や気持ちなんて適当に作られているもんなんだなと思わせてくれます。
pha:サウナは本当にそうですねえ。人体をすごく熱して、そのあとすごく冷やしたら、なんかめっちゃ気持ちよくなるっていう。なんなんだ(笑)。
佐々木:ドーパミンかエンドルフィンかわからないですけど、そういうものがドバドバ出て気持ちよくなる。サウナの存在もすごくありがたいんですけど、無情さを感じることもありませんか?
どんなに成功したり、友達と嬉しさを共有する瞬間よりも、サウナのほうが幸せかもみたいな……。
pha:わかります。インスタントに得られるものには無常観があるんですかね。
佐々木:たとえば、「本が10万部売れました」とかになっても、あんな恍惚とした状態にはならないですからね。滅多に起こらないことの瞬間の恍惚が、そのへんのサウナほどじゃないという。
pha:昔、LSDをやるのと座禅を組むのは同じ脳内物質が出る、だからまどろっこしい禅をやるよりもLSDをやればいい、みたいな話があったけど、やはり違う部分もあるのでは、と思います。
佐々木:そうですね。耐性もあると思うので。サウナもほどよく耐性はあるなと思います。僕は、やっぱり前ほど効かなくなってきました。
pha:ありますね。僕も、最初の頃ほどはととのわなくなってきた。
佐々木:最初の頃は、本当に宇宙にでも飛ばされた感じでしたけど、最近はほんのりですね。僕はphaさんの影響でサウナに行き始めましたから。
pha:おお、そうでしたか。僕はタナカカツキさんの『サ道』を読んで始めました。
「教養」よりも「純粋な読書の楽しさ」を
佐々木:焚き火もいいですね。僕も、焚き火は定期的に見ないとダメだなと思っています。
pha:あー、いいですね。本当は焚き火をしたいんですけど、都会ではなかなかできないんですよね。焚き火、したいなぁ。
佐々木:焚き火をすると、本当に自分はホモサピエンスだなとわかりますね。火が付いた瞬間、一点を見つめ始めるし(笑)、どう考えても心が落ち着いてきます。
pha:原始時代からずっとやっていたんでしょうね。火を囲むことで親密度を上げたりしたんでしょう。
佐々木:そうだと思います。海を見るとか、月を見るとかもいいと思います。
pha:あとは、僕はやっぱり漫画を一気読みするかな。文字を読む気がしないときも漫画は読めるので。
佐々木:phaさんが『バキ』のことを「飲み物のようにごくごく読める」みたいなことをどこかで書いていて、サウナの後で『バキ』を読んだんですよ。ページをパラパラめくるという感覚じゃなくて、確かに、ごくごく読めた(笑)。
pha:1冊5分くらいで読めますからね。頭を使わずすごいスピードで一気飲みみたいに読むのが楽しい本だと思います。1ページ描くのに何時間もかかってるのに、それを1秒で読んじゃっていいのかなとか思ったりしますけど。
佐々木さんは、頭を使いたくないときは漫画を読みますか?
佐々木:そうですね。よく行くサウナに漫画のいい棚があったりして、それを読んだりします。
pha:いいですね。サウナとか風呂に入った後は、『バキ』とか『タフ』とか、そういう格闘系の漫画を読むのにちょうどよさそう。
佐々木:でも、自分の調子が悪くなってくると、いろんな漫画を読んでも、「他の漫画の二番煎じだな」とか、「キャラクターが多少変わっただけで、同じ構造だな」とか、そういうふうに思ったりします。
このphaさんの本は、やっぱりブックガイドが魅力的で、漫画も入っているし、そのバランスがいいんでしょうね。
pha:僕としては自分の中の定番を紹介しているだけな感じなんですが、たしかにこういう感じのセレクトはあまりないのかも。
佐々木:phaさんが毎年ブログで書かれているブックリストは人気だと思いますが、その理由はやっぱり、専門的な学者さんが出すブックリストは、「これくらいは読んでおこうね」というお勉強の感じがしちゃうというところがあると思うんですよね。
pha:そうなんですよね。教養として定番の本をちゃんとおさえる感じですよね。
佐々木:たしかにそれも大事だけど、ちょっと重たいときもありますね。だから、そうじゃない純粋な読書の面白さをphaさんのリストからは感じやすいと思いました。
pha:ありがとうございます。もし、また何かあったら、こんな感じで対談してもいいですかね。
佐々木:ぜひぜひ。また面白かった本とかを知りたいですね。今回もすごく励みになりました。
pha:ありがとうございました。佐々木さんの次書かれる本も楽しみにしています。
1978年生まれ。大阪府出身、東京都在住。京都大学総合人間学部を卒業して就職後、できるだけ働きたくなくて社内ニートになるものの、28歳のときにツイッターの登場に衝撃を受けて会社を辞めて上京。以来、定職につかず毎日ふらふらと暮らしている。シェアハウス「ギークハウス」発起人。ロックバンド「エリーツ」のメンバー。著書に『人生の土台となる読書』(ダイヤモンド社)のほか、『しないことリスト』『知の整理術』(だいわ文庫)、『どこでもいいからどこかへ行きたい』(幻冬舎)などがある。