約100冊の独特な読書体験をまとめた著書『人生の土台となる読書』を上梓した、pha(ファ)氏。本書では、「挫折した話こそ教科書になる」「本は自分と意見の違う人間がいる意味を教えてくれる」など、人生を支える「土台」になるような本の読み方を、30個の「本の効用」と共に紹介した。
その刊行を記念して、『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』『ぼくたちは習慣で、できている。』などの著書を持つ作家/編集者の佐々木典士氏との対談を行った。読書家である2人による、「もっと本が好きになる」ための読書談話をお送りする。
情報を集めまくることで
「本質」を追求したい
pha:今回は僕の新刊『人生の土台となる読書』の刊行記念として、佐々木典士さんとの対談をしようと思います。佐々木さんとは関心のあるジャンルが似ているので、いろいろ面白い話ができるんじゃないかと思っています。よろしくお願いします。
佐々木典士(以下、佐々木):僕は、『ぼくたちに、もうモノは必要ない』というミニマリストの本と、『ぼくたちは習慣で、できている』という習慣についての本を出しています。習慣の本を出したときにphaさんが対談イベントに出てくださって、そのとき以来の関係ですね。僕はそんなにたくさん本が書けないので、いつも「そろそろphaさんの本が出るんじゃないのかな?」って、ヤキモキしたりしてます(笑)。
pha:こないだ出た、佐々木さんの『ぼくたちは習慣で、できている』の文庫版では僕が解説を書かせてもらったんですが、佐々木さんは毎回すごく調べて1冊の本を書かれますよね。熱量と情報量がすごい。
佐々木:何かのテーマについて書くときに、調べ尽くしたいという思いは常にあって、それが苦しかったりもするので、今回はそのへんの人生相談にも乗っていただきたいなと思っています。
pha:僕も似たところがあるのでわかりますね。今回の本も、今まで読んできた本を紹介するというものなので、ひたすら調べて書く系ですし。いろんな情報を集めまくることで、「物事の本質は何なのか」ということを追求したい気持ちがあるんですよね。
佐々木:そうですね。この本では、いろいろなジャンルの本を紹介されていますね。phaさんの興味のあるジャンルの本は、僕と同じだなとあらためて思いました。
pha:近いんじゃないかと思っていました。考えてることは結構似ている気がしますね。
佐々木:この本を読ませていただいて、30個くらいの項目に沿って100冊くらいの本がまとまっていて、まずはブックリストとしてすごく優秀ですよね。僕はいつもphaさんが「はてなブログ」で紹介している書評も見たりして、読みたい本のリストに入れたりしています。
だからパッと見て面白そうだなと思う本を見つけるのにもすごいいいし、自分の過去の読書体験もいろいろ思い出すようなことがありました。本だけが友達なときって、僕もあったなと思って(笑)。
pha:僕は高校生までは本当にそうでしたねえ。
佐々木:大人になると、勉強のためとか知識を得るために本を読むことが多くなってきたなと思うんですが、昔は救いを求めて読んでいましたね。大学の頃に友達が全然いなくて、わりと孤独だったんです。
バイトをしていても、そこのバイトの人たちと世間話することに興味が持てなかったりして。だから、バイト中も、バックヤードにこもってハイデガーの『存在と時間』を読んだりしていました。
pha:それはヤバい(笑)。
佐々木:今考えると、やりすぎでした(笑)。じゃあ、その本の内容を覚えているかというと、全然覚えていない。だから、あまりいい読書じゃなかったと思うんですけど。
「エクストリームな人」の本を読む
佐々木:でも、そういう経験ってよくありました。特に大学の頃は、まだツイッターやSNSで自分の仲間を探したり、自分に似ている人を探したりはできなかったじゃないですか?
pha:佐々木さんと僕は、1979年生まれと1978年生まれで一つ違いなんですが、僕らの大学生の頃はそんな感じでしたよね。インターネットはギリギリ登場していたけど、SNSとかはまだ全くない時代だった。
佐々木:本当に本だけが友達だったし、本を書いた200年前の人だけが友達、というときがありました。だから、このphaさんの本は、役に立つだけじゃなくて、いろいろ身につまされましたね。
pha:そこまで読み取ってもらえるのはありがたいですね。同世代だからというのもあるのかも。
佐々木:そうですね。今だったらきっと本以外のものを探せますからね。
pha:情報はあふれてますからねえ。
佐々木:ハッシュタグで自分と近しい人とか、自分と同じ病気がある人とか、なんでもいいんですけど、共通することを探せますよね。
ちなみに、この本の中で、僕が読みたくなったのは、宇宙の話で紹介されていた「マルチバース」です。
pha:須藤靖さんの『不自然な宇宙』ですね。この宇宙以外にも宇宙はたくさんあるという話。マルチバースの話は、なんか嘘みたいな話でわくわくします。
佐々木:あとは、見田宗介さんの本ですね。あらためて読みたいなと思いました。
pha:おお。最近対談した海猫沢めろんさんも、そう言ってくれました。
佐々木:あと、『聖なるズー』を知ったのは、phaさんの紹介でした。僕がよく行っている書店でも目立っていて、表紙の犬を見るたびにphaさんのことを思い出して、「いつか読むぞ」と思っていました。
pha:濱野ちひろさんの『聖なるズー』はめちゃめちゃいいですよ。本当に価値観がひっくり返った本でした。内容は、動物とセックスをする人間の話で、それを聞くと「えっ!」って思うけど、読むと、「ああ、こういうのもありなのかもしれない」という気持ちになってくるんですよね。
動物とは何か、ペットとの関係とは何か、そもそも愛情とかセックスとは何なのか、みたいなことを考えさせられる本です。
佐々木:そうですね。だからそういうエクストリームな人を見て、ロールモデルにするという項目が本にありましたけど、そういうことだってありなんだなと思えるのはすごくいいことですね。
たぶんphaさんも僕も、その「ロールモデル業界」で世に出たと言えるんじゃないかなと思います。
「ミニマリスト」的なロールモデル?
pha:あー、そうですよね。「働きたくない」とか「ミニマリスト」とか。あっ、「佐々木さんの本を読んでミニマリストになりました」とか「二人のおかげで貯金ができるようになりました」というコメントがきています(注:対談中に視聴者からのコメントが来ています)。
佐々木:この間、誰かがツイッターでつぶやいてて、「この本のおかげで2000万円貯金できました」みたいな人がいました。申し訳ないけどそのうちの100万円ぐらいくれないかなと思いました(笑)。
pha:すごいな。でも佐々木さんの本は、本気でやるとそれぐらいの効果はありそう。
佐々木:phaさんの『持たない幸福論』は、ぼくのミニマリストの本と発売日が近かったですね。
pha:そうなんですよね。『持たない幸福論』はタイトル的にも「ミニマリストものかな?」と思った人もいそう。ミニマリスト的な文脈を狙ったわけではなくて、たまたまなんですが。
佐々木:自分の本が出る前に、「phaさんの本に自分が書こうとしている内容がすべて書かれていたらどうしよう?」って思ってました。
pha:そんなにそういう話ではないんですけどね。
佐々木:タイトルだけ見てそうかなと思ったのですが、そういう話じゃなかったですね。
pha:お金や家族や仕事はそんなになくてもいいんじゃないか、という話はしてるけど、物を減らそうという話はあまりしてないですね。でも、通じるところがあるとは思うし、あわせて読んでくれた人がいたならよかったと思う。