相思相愛のメタバースとNFTも
今はWeb3の理想を実現できない
インターネットやウェブの牧歌的な成り立ちからの純粋な流れで、原理原則に沿う考えからWeb3を支えている人たちもいる一方で、ブロックチェーンや仮想通貨に投機的に期待している人もいて、中には詐欺的な行動を起こす者もいます。そのことから、掲げられたビジョンや理想とは異なるWeb3の現状に対して、疑問や懸念を示す人々もいます。
本来「非中央集権化」の象徴的存在とも言えるNFTについても、取り扱うプレーヤー自体は非中央集権化されていない、というケースが増えています。このことは今、Web3にまつわる物事が複雑化する理由のひとつになっているかもしれません。
プレーヤーの一例として、米小売大手のウォルマートが挙げられます。ウォルマートは、メタバースと呼ばれる仮想空間上でのデジタル資産商品の販売に備え、独自の暗号通貨と複数のNFT発行を準備しているということが、米国の特許商標庁への商標登録出願から明らかになりました。
メタバースとは、フェイスブックが「メタ」へと社名を変更したきっかけとしても話題になりましたが、コンピュータネットワーク上に構築された、現実世界と似て非なる仮想空間、またはそうした空間を提供するサービスのことを指します。
ウォルマートが、NFTをメタバースにおけるデジタルコンテンツのオリジナリティを証明するものとして活用しようとしているのは理解ができます。ただし、おそらくそのNFTを活用するサービスの非中央集権化をウォルマートが目指すことはないでしょう。本来は非中央集権化の象徴であるNFTを、特定のプレーヤーが活用しようとするのは、ウォルマートに限ったことではありません。
メタバースとNFTの組み合わせが期待されているのは、デジタル資産やNFT売買の場として仮想的なマーケットプレイスが欲しいというニーズがあり、その場としてメタバースというデジタル空間が適当なのではないかという考えからです。ところが現在のメタバースは、必ずしも非中央集権化されていることが成立条件ではありません。その多くはどこかの事業者が所有しています。そこでは、本来のWeb3の理想とは違うかたちでNFTが利用されることになります。
デジタル資産をやり取りする空間としてのメタバースと、その資産の通貨兼証明書となるNFTとは相性が良く、相思相愛といってもよい関係だと思います。ただ、それは元のWeb3の概念が目指していたピュアな理想とはかなり異なったものとなる可能性が、現状では高いと思えます。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)