ウェブや電子メール以降に
標準化されたサービスはない

 同じことはおそらくウェブにも言えます。ウェブに似た情報の受発信システムとしては「ビデオテックス」と呼ばれる仕組みがありました。これは電話回線を通じて文字や画像、簡単な動画を送受信するものです。日本では日本電信電話公社(NTTの前身)などがサービスを提供していました。しかし、そこでも相互運用が成立することはなく、サービス提供各社はそれぞれの顧客企業を囲い込み、別のシステムを利用する企業との情報のやり取りはできませんでした。

 サービス事業者がユーザーを囲い込み切れないでいるところへ、草の根的にあった仕組みがインターネット通信網の普及とともに、抱き合わせの状態で一気に広がってしまった、というのが、ウェブや電子メールの爆発的な普及の実態で、やはり私はこれを偶然の産物だと思うのです。

 その証拠に、ウェブや電子メール以降のインターネット上のサービスは、相互運用や標準化が叶っていません。たとえば今、私たちはチャットシステムとして、フェイスブックの「Messenger」やツイッターの「ダイレクトメッセージ」など、さまざまなツールを利用していますが、ツールを超えてメッセージを交換することはできません。これは「Slack」やマイクロソフトの「Teams」、「Google Meet」といった他のツールでも同様です。2000年代前半には、こうしたチャットツールを標準化する動きもあったのですが、うまくいきませんでした。

 同じようなことは、SNSやビデオ会議ツールなどでも起きています。本当は相互運用できた方がユーザーにとっては便利なはずですが、そうした流れは主流になりません。本来は中立で所有者やコントロールする人がおらず、相互運用できればよいのですが、ある程度確立されたインターネットのコミュニケーション基盤の上ではもはや、基本的にそれが不可能になっています。

 ツイッターの対抗馬として現れた、非中央集権型の短文投稿SNS「マストドン」のようなサービスが時折登場することはありますが、残念ながら、そうしたサービスもそれほど普及せずに今に至っています。

 インターネットやウェブの上で、本来の意味での中立といったものを期待することができなくなってきている今、そのような流れを断ち切りたいという思いから、Web3への期待も高まっているのではないかと思われます。