厳しい環境下にあっても
EPSで株主に向き合う

 図表4は、NTTの過去10年度にわたるEPSと発行済株式数(自己株式を除く)の推移である。NTTが長期にわたって経営指標として掲げるEPSは安定した成長を示していること、またその原動力はEPSの分母に算入される株式数の減少によることが明らかである。

競争の激しい通信業界で、NTTの株価が10年連続で安定成長している理由とは?図表4 日本電信電話のEPSと発行済株式数の推移

 同期間のNTTの当期純利益、すなわちEPSの分子の推移は、図表5に示すとおりであり、緩やかな上昇基調にはあるものの、EPSのCAGR2ケタ成長を生み出すような力強さはない。

競争の激しい通信業界で、NTTの株価が10年連続で安定成長している理由とは?図表5 日本電信電話の過去10年度の当期純利益

 国内人口の縮小に始まり、グローバル環境下でのオープンでシームレスなクラウドサービスによる競争に軸足は移行している。また国内通信料金引き下げへの政府の動きも加速し、これまでNTTの稼ぎ頭であったNTTドコモを完全子会社化するなど、NTTを取り巻く環境は急速な変化を遂げている。

 こうした自社の競争環境の変化をとらえ、NTTは2012年から先んじてEPSを「メインの指標」として位置付けて前面に押し出した経営を実行してきた。自社の業績がしばし低迷することはあっても、株主にとっての1株の価値、すなわちEPSはCAGR10%前後で成長させるというコミットメントの表明である。

 NTTの株価が過去10年度にわたっても基本的には安定した成長を遂げ、株式時価総額でも国内5位以内に常に立ち続ける原動力として、NTTの「経営指標EPS」が大きく寄与していることは間違いなかろう。

 NTTは、2020年12月にNTTドコモを完全子会社化した。その目的として、「NTTドコモは、NTTコミュニケーションズ・NTTコムウェア等の能力を活用し、新たなサービス・ソリューションおよび6Gを見据えた通信基盤整備を移動固定融合型で推進し、上位レイヤビジネスまでを含めた総合ICT企業への進化」をめざすとしている(*4)。

 一連のスキームにおいて、4兆円に及ぶNTTドコモ株式の非支配持分の買い取りを、NTTは自己資金と有利子負債のみで実行し、新株は1株も発行していない。発行しないどころか、図表3で見たような継続的な自社株買いを実行している。

 約66.2%のNTTドコモの株式を保有していたNTTは、残りの非支配持分株式を買い取ったことにより、NTTドコモが計上する約6000億円の当期純利益の33.8%、すなわち約2000億円が今後NTTの親会社に帰属する当期純利益に計上されることとなる。

 これもまた、NTTのEPS目標を押し上げる大きな実行策となった。NTTドコモの完全子会社化によって膨らんだ有利子負債についても、下記のように説明している(*5)。

(中略)一時的に有利子負債水準は高まりますが、リース事業分社化や債権流動化により負債を圧縮します。負債の返済については、従前どおり株主還元の充実と、さらなる成長に向けた出資などを継続しながら、目標水準である6兆円程度(EBITDAの約2倍となる水準)まで負債(0.9兆円)を数年程度で返済していく考えです。

 NTTは中期経営戦略実行のための10の柱を示している(*1)。

1.B2B2Xモデル推進
2.5Gサービスの実現・展開
3.パーソナル化推進
4.グローバル事業の競争力強化
5.国内事業のデジタルトランスフォーメーションを推進
6.PSTNマイグレーションの推進
7.研究開発の強化・グローバル化
8.不動産利活用(街づくりの推進)
9.地域社会・経済の活性化への貢献
10.災害対策の取組み

 これらを遂行した結果として実現したい財務目標が図表2の5つの数値というわけだ。しかしながら、内容的には現状と大きく変わらない海外売上高比率、コスト削減額のKPI化、必ずしも高くないROIC水準や、国内ネットワーク事業での設備投資の上限額設定と、全体的には魅力にあふれた成長戦略の経営指標には必ずしも見えてこない。

 しかし、「EPS成長+50%」は、こうした厳しい環境下にあっても、株主価値の源泉となるEPS成長には強くコミットすることの表明である。EPS目標がなければ失望を招いたやも知れない中期経営戦略を、NTTここにあり、といった存在価値を十分示すEPSへの継続的なコミットメント経営と言えるのではないだろうか

 理想は高らかな成長戦略に基づくEPS経営の実行だが、成熟した環境下にあるからこその「経営指標 EPS」の打ち出し方もありだということをNTTは示したとも受け取れよう。これに準じるように、KDDIもまた2019年5月に発表された中期経営計画より、6年後(2025年3月期)のEPS目標1.5倍という経営指標を設定している。

 いかなる環境下にあっても、海外企業と同様にして、日本企業も真剣にEPSを正面に見据えた経営を実行することの大切さを、NTTやKDDIの動きが示唆していよう。

参考文献
*1 日本電信電話「NTTグループ中期経営計画『Your Value Partner 2025』」2018年11月6日
*2 日本電信電話「NTTグループ中期経営計画『新たなステージをめざして』」2012年11月8日
*3 日本電信電話「NTTグループ中期経営計画『新たなステージをめざして2.0』」2015年5月15日
*4 日本電信電話「NTTドコモ完全子会社化後の連携強化に関する検討の方向性」2020年12月25日
*5 「株主通信 NTTis 2020.12 特集1 NTTドコモの完全子会社化」日本電信電話ウェブサイト