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データサイエンティストの冒険

アナリティクスは課題認識から。
課題なきところに向上余地なし

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第4回】 2013年1月7日
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保険制度の違いがもたらす、
国民の医療サービスへのチェック機能の差

 日本はもちろん、アメリカなどの少子高齢化に人口動態をシフトさせている先進国では、医療費が国家歳出の多くを占めており、その削減は待ったなしの状況である。アメリカでは多くの企業が従業員の雇用維持費に頭を悩ませており、福利厚生の一つである、高額な従業員保険加入負担費も雇用維持費の一つであるとされている。

 オバマ大統領が2009年大統領就任時に出した一般教書演説において、国家戦略の一つにIT医療政策(約1兆9200億円。1ドル=100円換算)を割り当てたことは有名な話だ。実際にアメリカでは、雇用主が被雇用者一人当たりに支払う給与の約40%弱を福利厚生費として負担している。例えば、1000万の年収の社員に対し、約400万弱の福利厚生が必要となり、雇用主の負担は単純計算で計1400万となる。

 先進国においては、重点国家政策の一つとして、医療分野と教育政策に取りかかることがインパクトの大きさ(Order of Magnitude)からみて揺るぎない事実となりつつある。人は健康であるからこそ活動できるし、将来経済を担うのが若年層である子どもたちなのだから、当たり前といえば当たり前である。実際、対GDPにおける医療費の割合も、2012年のOECDのHealth Data 2012から読み解くと、アメリカは17%強、日本は約10%弱と高い数値を示している。

 国民皆保険のないアメリカでは、失職は、すなわち保険を失うことに通じる。実際の可処分所得だけではなく、雇用という仕組み自体が、生活基盤の保障まで危うく支えているという死活問題に直結している。また移民が多いアメリカでは、H-1B就労ビザで入国している場合、失職 → ビザはく奪≒即強制帰国と直結するので、みな職を維持するのに必死になる。働かざる者食うべからず(金を生み出さない≒国外追放)が徹底していて、もちろん賛否両論あり、合理主義アメリカの政策として冷徹にも見えるが、それでいて優秀な人材が多く渡米できるのだから強い国力を維持できており、多くの経済合理性もあるようだ。これもすべて統計値に基づいて、損益分岐などを考慮したうえで政策設計されているのだろう。

 日本の緩い年功序列型の労働環境でぬくぬくと生きてきた我々には、なかなかそうした事実は信じられないかもしれない。事故で指を切断してしまった時、緊急病棟に到着早々「人差し指なら600万、薬指なら120万、両方付けますか? 一つにするならどちらを付けますか? 30秒で契約書に同意し、手術に入りますので決断してください」などという会話がアメリカでは普通に起こる。日本では絶対あり得ないだろう。私もうっかり保険プランの番号を伝え間違えて、後日400万円近い請求書が来て驚いたことがある。

 こうなるとアメリカ国民は行政と保険制度に対して日本人と比べ物にならないくらい自己責任を意識しており真剣だ。自らの保険が何をカバーしてくれて、どの検査項目は有料なのか?いくらCo-pay(一回当たりの診療負担費)を払えばいいのか熟知している。どこまでが補助でどこまでが負担なのかの明確な境界線を知っているのだ。緊急病棟に運ばれてから悠長に「あー、ちょっとWebで調べるので治療を5分ほど待ってちょうだい」などと言っている暇がないからである。

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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